筆者の書籍に『外食入門』(2017年、日本食糧新聞社)がある。これは、1960年ごろからの外食の近代史をまとめたもので、この間の状況から21本のエポックを抽出して論じた(2017年発行なので、コロナ禍のことは書かれていない)この度、この本の内容をベースにして「外食産業50年」の流れを「5つの時代」に分類した記事をまとめた。その構成は以下のとおりである。第1章 ~1960年代から1990年代(バブル経済)までチェーンレストランが立ち上がり、画一化から多様性へ 第2章 ~1992年から2003年までの10年間チェーンレストランが小商圏化に進み、低価格を追及する 第3章 ~1990年代後半から2010年あたりまでFCブームを駆け抜けたベンチャー・リンクとBSEに揺れた時代 第4章 ~2011年から2020年までの10年間ボーダレス化、多様化、高品質化へ、そしてインバウンド 第5章 ~2020年から2023年までコロナ禍が外食産業にもたらした「生き抜く力」と「新しいステージ」そこで、この『FOOD PURPOSE』で、これらの内容を公開していきたい。題して「『外食産業の歴史』を知る時間」である。ここから月に2回ほどのペースで展開していきたい。この連載の第1回となるのは、直近で体験した「コロナ禍」を振り返るということで、上記の「第5章」から始める(第5章のあとは、第1章へと続く)。では、第1回を始める。2020年から2023年までコロナ禍が外食産業にもたらした「生き抜く力」と「新しいステージ」――その①(この章は3本)2020年4月以降の度重なる緊急事態宣言や営業自粛要請によって、外食産業は営業時間の短縮や、酒類販売の自粛など、厳しい事態を迎えることになった。ここでは、コロナ禍にあって外食ではどのような行動をとったかということの顕著な事例を筆者の当時の記事をつないで述べていきたい。なお、代表者名や肩書、店舗数・売上等の数字は当時のままである。■ワンダーテーブル(東京・新宿区)新しいサービスと位置付けて「テイクアウト・デリバリー」に取り組むコロナ禍対策を最も先験的に展開していた外食企業は㈱ワンダーテーブル(本社/東京都渋谷区、代表/秋元巳智雄)であろう。その動向はSNSやweb媒体で熱心に発信された。同社は国内49店舗、海外75店舗を展開(当時)。2020年4月7日に発出された最初の「緊急事態宣言」(7都道府県)を受けて、4月8日より国内全店舗のイートインを休業しているが、8ブランド22店舗でテイクアウトとデリバリーを行った。また全店イートイン休止から10日間足らずの4月17日に「テイクアウト・デリバリーまとめサイト」を開設した。これに対して広報担当の竹原真理子氏はこう語っていた。「2月中旬ごろから、社内では『いつロックダウンが起きてもおかしくない』と警戒していました。それに合わせてメニュー開発やテイクアウト・デリバリーの販売方法を模索して新たな収益の柱を準備していました」同年3月13日に代表の秋元氏が社員に向けて「サバイバル宣言!」を発表した。それは「新たな想像力で業務改革にチャレンジしていこう!」というもの。この宣言が出る前に幹部メンバーにはそれを求める内容が共有化されていて、竹原氏は今後何をすべきかスキームを組み立てて、3月13日の前から「まとめサイト」の考案を始めた。このサイトを見ると「デリバリー」のほかに「Uber」がある。「デリバリー」とは社員が行うこと。その理由は二つあった。一つはUberの登録が間に合っていない。この登録申し込みが各社・各店から殺到していて、掲載に至らない店舗もあった。もう一つは手数料軽減と社員の活用。イートインを全店休業しているのでスタッフはたくさんいる。ブランドによって専用のバックと自転車を購入し、保険にも加入して4月17日より社員によるデリバリーを開始した。同社の今回の試みは危機感を背景にした営業戦略である。テーブルサービスの飲食店が一斉にテイクアウトに取り組むことは来るべき時代の営業形態を具現化しているともいえるが、外食のテイクアウト・デリバリーは先行している中食と比べて衛生面や生産性などでの課題は多かったはずである。秋元氏はこれらを業界の課題としながらも、このように語っていた。「しかし、当社も含めて『ノウハウをつくる』『ブランドの楽しみ方を増やす』という意味では大きい。少子高齢化が深まる未来に向けて、新しい飲食店のサービスになりつつあるからです」同社の情報戦略とダイナミックな商品開発には、チャレンジマインドの企業文化が感じられた。 ■ハミングバード・インターナショナル(宮城・仙台市)タクシー事業者と共同でデリバリー事業に取り組む宮城県仙台市内を中心に飲食店を19店舗展開している㈱ハミングバード・インターナショナル(本社/仙台市青葉区、代表/青木聡志、以下ハミングバード)では、仙台中央タクシー㈱(本社/仙台市宮城野区、代表/神田博志)と提携して、タクシーを利用したデリバリーサービスの「タクデリ」を2020年4月15日からスタートした。外出自粛によって気軽に飲食店を訪ねることができない人々に向けて、出来立ての料理をタクシーで届けるというサービスだ。ハミングバードでは、テレワークが増える傾向の中でかねてデリバリーの事業化を画策し、19年10月の消費税引き上げ(8%から10%へ)を機に仮想店舗によって「ハミングバードデリバリー」を行っていた。ここではバイクを5台用意して対応していたが、さらに増える需要に対応する必要性を感じている中でタクシー業界の知人から、「タクシー業界も利用客が減っている」ということを伺い、ハミングバードと仙台中央タクシーとの間で「タクテリ」の構想を温めるようになった。さて、「タクテリ」の利用の仕方は以下のようになっている。・2000円以上からお届け(別途、送料が500円かかる。2店舗に注文すると2店舗分の送料がかかる)。・支払方法は、現金またはPayPay。・営業時間は、9時~21時(年中無休)。・注文は、まずお客さまが直接、仙台中央タクシー配車センターに電話で「タクデリの注文」と伝える。・次に、オペレーターの案内に従い、〈チラシを見ながら〉①住所(配達エリアの確認)、②店舗名(店舗記号)、③商品番号、④個数、⑤名前、⑥電話番号を伝える。・商品の受け取りは、まず、配車センターから到着の連絡が入り、家の近くに来ているタクシーまで取りに行く。・現金またはPayPayで支払う。――これで受け取りは完了となる。また、主なただし書きとして以下の項目がある。・商品は注文をいただいてから調理しているので、配達まで45分~1時間30分程度かかる。・事前予約の場合は、時間指定も可能。などである。ハミングバードと仙台中央タクシーの試みはフィージビリティスタディとして、5月からは料理をつくる飲食店や、デリバリーを行うタクシー業者の登録を増やし、これによってデリバリーのエリアも拡大し、アフター・コロナの事業の一つとして想定する動きもみられていた。■和音人(東京・世田谷区)コンセプトの源となる通信販売を開発し「オンライン飲み会」で発信東京・三軒茶屋にドミナントで7店舗展開している㈱和音人(わいんびと、本社/東京都世田谷区、代表/狩野高光)の場合。創業の店のコンセプトは「山形」に由来するが、それは立ち上げメンバーであり現在同社の執行役員を務める齋藤太一氏が山形県西川町大井沢の出身で、父が現地の町おこしで活躍している。齋藤氏は父の活動を応援したいという想いがあったことから、狩野氏も創業店のコンセプトをその町を盛り上げていく趣旨のものにした。立ち上げメンバーは店がオープンする1年半前から、現地の酪農家、農家、酒蔵などさまざまなところと交流して食材を仕入れるルートをつくった。和音人では2020年に入り1~3月の業績は前年を上回っていたが、4月に入ると通常の3割以下に減少するようになった。政府は4月7日に「緊急事態宣言」を発出した。それを受けて、狩野氏は9日より和音人の7店舗中6店舗の営業を自粛することをfacebook上で発表。ここからの同社の行動は俊敏であった。それは、以下のようなものだ。(1)4月10日より、7店舗中6店舗はイートイン営業を休止しテイクアウト営業に切り替え、無添加・無化調の食事を提供。デリバリーは、業者ではなく同社の社員が行った。これは業者委託の経費を削減するだけではなく、地域密着で育ってきた同社として地域との結びつきを大切にしたため。メニューは「彩り稲荷寿司」「三種のブリトー」「鰹節のフォカッチャ」(500円)、「料理人七人の日替わり弁当」を始めとした弁当(1000円)、オードブル(3000円、5000円)、和音人がセレクトした日本酒やオリジナルのクラフトサワーなど。デリバリーの場合は2000円以上購入の場合は送料無料、2000円未満の場合は送料300円とした。開始してから1日80食を販売するようになり、大口の注文が入ると100食になることもあった。(2)ECサイト(通販)を立ち上げ、オリジナル商品を「和音人 月山 STORE」というサイトで発信。商品のコンセプトを山形の月山に求める姿勢は創業当時より一貫していた。まず「おうちde 芋煮」「おうち de 餃子」(1700円)を開発、また「山形斉藤の千日和牛」という和音人のブランド牛(1000日飼育の黒毛和牛の雌)を部位別にラインアップ。また、和音人のアンテナショップでも販売している「無添加手作りのレモンサワー」(1300円)や「からみそ鶏白湯スープ」「月山水炊き鍋〆ラーメンスタイル」(1500円)を逐次ラインアップ。開始して1週間で40万円を売り上げた。(3)「社長をタダで貸します」――代表の狩野氏が、他者の社員の勉強会に講師として出講。営業を自粛している中で、この期間に社員教育や、幹部研修をしたいという会社の要望に応えて、狩野氏が勉強会を行った。(4)オンライン飲み会「zoom de BAR」を開催。4月10日から、週に3回程度のペースで開催。三軒茶屋のバーから狩野氏を始めとした3人が司会を務め、参加者と盛り上がる。参加者は和音人の顧客、関係者の友人、知人など。東京だけではなく、マレーシア、アメリカ、スイスなど多岐に及んでいる。4月21日は「スラムダンクの勝利学に学ぶ」をトークテーマとして10人程度が参加し1時間強行った。――次回、11月7日に続く