『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。坪月商147万円! 圧倒的な生産性を築く居酒屋の秘訣KIWAMI(本社/川崎市中原区)「KIWAMI言語」はマックスの生産性を生み出すキーワード第8回(この連載は全10回)筆者は、前回の記事の中見出しの一つに「KIWAMIが求めていることが、コンテンツとなる」と書いた。前回の第7回に掲載した「KIWAMI言語」を読み返していただきたいが、全体63本の一つ一つは、まるで「本のタイトル」のようになっていて、それが示唆する内容に重みがある。 「KIWAMI言語」とは、同社の「労務マトリクス」の中に、同社の第10期(2024年11月~2025年10月)に新たに付け加えられたものという。この内容の重さとは、同社が毎年「キックオフ」を積み重ねてきて、従業員の総意を整えて、それによって導き出されたKIWAMIのマックスの生産性を生み出すキーワードのように思えてならない。 トイレ掃除をやらなくていい⁉そこで今回は、「KIWAMI言語」が意味するところを、代表の阿波さんから実際の経営のシーンに落とし込んで解説をしてもらった。ここでは、「KIWAMIK言語」の2番目「勝利の方程式」について述べる。飲食業は「QSCのすべてを、ちゃんとしていないと駄目」と言われている。しかし、阿波さんは、「そんな考え方は迷信ではないか、と思っている」という。阿波さんは、会社の全体会議で。従業員のみなさんにこんなことを言います。「トイレ掃除はやらなくていい」と。「うそうそ、本当はトイレ掃除をやりましょう」と、すぐにフォローするが。この真意はこういうことだ。「仕込みが終わっていないのであれば、トイレ掃除は後回しでいいです」と。それは、なぜだろうか?ここで、阿波さんは「勝利の方適式」というグラフを使って説明をしてくれた。このグラフが示していることは、「KIWAMIの店は、料理とサービス(接客)で勝つ」ということ。KIWAMIという会社が進むべき道を定めている。仮に「料理とサービス(接客)」が10点満点を取っていて、「清掃」が2点だったとする。すると従業員の心理として、『清掃に力を入れてやりたい』と思うことであろう。そこで、「仕込み」が終わっていないのであれば、「清掃」は5点でいい、ということだ。このような考え方で、「料理10点」「接客10点」「清掃2点」で「22点」となる。そこで、仕込みが間に合わないのに、「料理8点」にして「清掃5点」にする。すると「23点」となる。前者より「1点」上がった。阿波さんは、「この状態は『悪』である」と断言する。その理由は「この状態では、お客様は二度と来店しないから」とのこと。「なぜなら、お客様がKIWAMIの店に来店する理由は、『料理とサービス(接客)』を求めているからです」平均点だらけだと繁盛店になれないさて、繁盛店となる要因を上げてみると、こうなる。・料理・サービス(接客)・立地・価格・広告・清掃阿波さんは、こう語る。「率直に言って、この6つの全部をこなすことはできません。無理なことです。この6つの中で、1つか2つをやることで、『何とか、ならないかな~』とずっと考えていました。この私の想いが『繁盛の方程式』を生み出すきっかけとなりました」「料理をおいしくしていると、お客様はやってくるのかな?」「いや、料理がおいしくなくても、繁盛している店はあるよ!」「料理がめちゃくちゃおいしいのに、潰れるお店はあるよね」「安い店も流行っているし、高いお店も流行っているな」「食べログの点数が低くても流行っているお店はあるよ」「内装がよくても、よくなくても」「接客がよくても、よくなくても」こんな具合に、繁盛するための要因には、全部に表と裏や、プラスもマイナスも存在する。つまり、「飲食店に正解はない」、でも「飲食店に正解はある」ということだ。再び「繁盛の方程式」のグラフを見ていただこう。ここでA店とB店を比較している。A店の点数は、この6つの要素が全部平均よりちょっといい7点で、42点。一方のB店は、料理7点、サービス(接客)10点、立地が3点、価格が10点、グルメサイトに広告を出していなくて0点、清掃が7点と。これで38点。このA店とB店、どちらが繁盛店になるだろうか。阿波さんは、「私はB店だと思います」という。A店は6つの要素の全部が平均点よりちょっと上である。だったら、こっちの方がいいのではないか。店に行く動機によって「求めるもの」は変わる阿波さんは、このことを説明するために、3つの例題を出してくれた。1番目は、高校時代の仲良し6人組がいたとする。そこで、横浜駅で落ち合った。「どこにいく?」と。「安い居酒屋でいいか」と。「90分999円飲み放題の店があるんで、そこにする?」と。「じゃ、そこに行くか」と。2番目は、お正月に家族が集まる。娘が、旦那さん、子供たちを連れてきて、8人が一緒に、1月2日に外食をする。そこで、息子さんがお母さんからお店選びを頼まれた。息子さんは、家からちょっと離れた、ロードサイドのうなぎ屋さんを予約した。3番目は、いまから阿波さんと二人で食事に行きますと。阿波さんはお酒を飲めないので、車で移動します。「どんなお店に行きたい? 食べログとかで選んでおいて」と。すると「(おごってくれるんだったら)高い焼肉屋さんに行きたい」と。「同級生と行くお店」「家族で行くお店」「私と二人で行くお店」、この3つのパターンである。1番目の「同級生と行くお店」は、価格しか見ていない。「90分飲み放題999円のお店」は、たぶんサービスは良くないのでないか。「サービス(接客)0点」。清掃もできていないのでは。「清掃3点」。でも価格についての満足は「10点」。2番目の「家族で行くお店」の場合、子どももおばあちゃんもいる。家から離れているから、お酒を飲まないお母さんとか、娘さんが車を運転する。そこで、お店の場所は家から離れているから、「立地0点」。うなぎはちょっと値段が高いことから、ちゃんとしたお店です「サービス(接客)10点」。ロードサイドにあるから、広告も出していないのでは。3番目の、「私と行くお店」は、価格が高いですから「価格0点」。でも、料理はめちゃくちゃおいしいはずですから「料理10点」。「魚もつ」の昨年12月のある日。宴会需要の人気が高く、連日2回転以上しているKIWAMIは「料理と接客で勝つ!」さて、これらの3店舗には共通点がある。それは、3つともに満点の「10点」がついている項目が必ずある、ということ。3つそれぞれのパターンでは、その「10点」の要素を求めて、そのお店に行くということだもう一つの共通点は、「0点があっても行く」ということ。それは、それぞれの目的にかなっているからである。「価格が安いのが一番」という人たちにとっては、お店の清掃が行き届いていなくても、そのお店に行くということだ。「料理には原価を掛けていてめちゃくちゃおいしい」「お店の清掃は業者にお願いしていて、めちゃくちゃきれい」「広告をバンバンかけていて、激安です」こんなことが「全部できている」というお店はあり得ないのではないか。――こういうことが、阿波さんの「勝利の方程式」の原点である。この「勝利の方程式」のグラフのA店の場合。6つの要素が全部、平均よりもちょっと上の「7点」というお店は、どのようなシーンを求めるお客が行くのであろうか。阿波さんによると、大抵の人はこう答えるという。「うーん、と。行く意味が分かりませんね」と。渋谷で、友だち4人で店を探して、どのお店も入れなくて、このお店が入れるのであれば入りますよね、と。つまりA店は、もともとからして「行く必要がない」お店ということ。――と阿波氏は断定する。そこで、「KIWAMIの店は『料理』と『サービス(接客)』で勝ちます」ということに帰結する。KIWAMIはこの2つともに10点である。しかし、「清掃」はちょっとできていない、かもしれない。従業員には、「『料理』と『サービス』が10点を維持して、『清掃』の点数を上げられるんだったら、上げてください」と、お願いしているという。ということで、KIWAMIにとって店舗運営の軸となるものは完全に「料理と接客」である。ここから、「強烈に、お客様にとって印象に残ることをやりましょう」と指導をしているという。