『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。「月額費300円で、1回の食事が1560円お得になる」サブスクを展開する「揚州商人」の展望とは第1回(この連載は計2回)いまどき「サブスクリプション」(サブスク)は当たり前のサービスである。1カ月、1年間という一定期間ごとに料金を支払うことで、商品やサービスを利用できる。これは、音楽、動画、電子書籍といったデジタルコンテンツの分野から始まったが、いまでは、ファッション、家具、家電、食品、車など、さまざまな分野で展開されている。では「外食」ではどうか。すぐに思い浮かぶことできるサブスクは存在しないのではないか。なぜだろうか。その理由は、外食のサブスクでは、その利用者は「元を取るために、食べ続ける」ことになるからではないか。これは、ファンであっても苦痛なことではないか。現実的に、利用者がこのような想いを抱いているとすると、経営する側は、「これまでのファンが離れていくのではないか」というリスクを感じる。このような、マイナスを生むバランスが、サブスクが外食に定着してこなかった要因ではないだろうか。それが「月額費300円で、1回の食事が1560円お得になる」といったサブスクはどうだろうか。この仕組みを考えたのは“中国ラーメン”をうたうラーメンチェーンの「揚州商人」(経営/株式会社ホイッスル三好、本社/東京都杉並区、代表/三好一太朗)。このサブスクを7月16日にスタートしている。同社の場合は、これまで業界に先駆けて顧客の「会員制度」をつくり上げて、数々の実績を積んできた。このサブスクは、当然「勝算」があっての取り組みである。そこで、同社がこれまで取り組んできた「会員制度」の沿革と、外食にとってこのようなサブスクがもたらす意義について、2回にわたって述べたい。「ラーメン200円引き」で、失敗を経験ホイッスル三好は、先代の三好比呂己氏が1988年7月に創業(1990年4月設立)。中国料理としてのラーメンを30種類以上、バラエティ豊富にラインアップしている。さらに点心や、今年6月から「揚州小皿料理」の品ぞろえをするようになり、客単価1450円あたり(1人2.2から2.3皿に相当)となっている。同社の業態である「揚州商人」という屋号からして、“中国ラーメン”を標榜するのは、現代表、三好一太朗氏(38歳)より3代さかのぼる曾祖父が、昭和初期に中国の揚州から日本に渡来して、横浜・中華街で働いていたことが原点となる。ファミリーはその後、飲食業をはじめとした事業を展開してきて、先代のときに現在の業容が整った。「揚州商人」の商品力とバラエティは多くの根強いファンを培ってきた。標準的な店舗規模は25~35坪で、現在1都3県に38店舗を展開している。「揚州商人」の「会員制」による顧客サービスは、現代表が専務を務めていた当時から果敢に行われていた。携帯電話が「ガラケー」の当時の2008年にメルマガ(メールマガジン)を始めた。これによって顧客にダイレクトにアプローチして、「揚州商人」の新しい情報やイベントの案内を送った。これを積み重ねていくことよって、三好氏は「知識的価値を発信することの重要性を学んだ」と語る。メルマガの会員数は1店舗あたり1500人程度、多いお店で4000人、5000人というところもあった。メルマガは週に2回発信、同時に「350円(当時)の杏仁豆腐が100円引き」のクーポンを付けた。日にちを特定して、その日に来店すると「ラーメン200円引き」ということも行った。この吸引力は強力であった。しかしながら、これを回を重ねて行っていくと、通常の日のお客は増えることなく、「200円引き」の日にしか来店しない顧客がでてきた。「これが、過去の大きな失敗」と三好氏は振り返るが、この経験が、同社のその後の会員制度に活かされていった。「揚州商人」のサブスクを含めた「会員制度」の一覧「毎月1回以上来店するコアなファン」が歓ぶことはこの失敗の経験を踏まえて、2010年からさまざまなイベントを行うようになった。それは、ラーメンやチャーハンを食べたお客に、何らかの商品をプレゼントした。「食べるラー油」がブームとなった当時に、「揚州商人」オリジナルの「食べるラー油」をつくり、それをプレゼントした。このような「プレゼント系イベント」を継続することで、「揚州商人は気前がいいね」という評判を得るようになった。携帯電話はガラケーから「スマートフォン」(スマホ)になり、ここからスマホの「アプリ会員」を導入した。それが今日の、同社のスタンダードな会員制度の「グルメ会員」である。2018年9月にスタートした。「グルメ会員」では、「登録無料」で、①割引イベントやクーポン券の配布(何度でも使える150円クーポンや、初回限定の無料クーポンも)、②会員様限定のメニュー販売イベント、③特製商品のプレゼントイベント、といった「3つの特典」がある。これに加えて、店舗情報や通販サイト、YouTube、SNS、採用の案内等も行っている。この現在までの累計ダウンロード数は150万を超えている。「グルメ会員」が人気を博して「揚州商人」のファンが増えていることの手応えを感じるようになり、「何年も継続して、毎月1回以上来店してくれるコアなファンの方々に、より歓んでいただこう、と考えるようになった」(三好氏)。そこで、「サブスク型の会員制度」のアイデアが生まれた。「サブスク」は、スマホの普及に伴って、さまざまな分野で導入された。映画配信サイトは、これらを象徴するサブスクであろう。「揚州商人」の店頭の特徴は、約30種類のラーメンのサンプルを陳列してバラエティをアピール冒頭で、「外食にサブスクが定着しない理由」について筆者が私見を述べた。それは、たとえ顧客が、そのお店の商品のコアなファンであったとしても、「元を取らなきゃ」という心理が働くこと。例えば、ラーメンチェーンが「1カ月5000円を支払うと、1日1杯に限りラーメンを何杯食べてもいい」というものがあったとして、顧客は、「元を取るために」無理をして食べ続けようとする。このような顧客の意識を、企業側から見た場合に「ファン離れというリスク」が存在する。このような、顧客側と企業側の意識の存在が、飲食業でのサブスクの定着を妨げていたのではないだろうか。そこで、ホイッスル三好では、「このような双方の課題を解決する方法をつくると、揚州商人の『よりコアなファン』に歓んでいただくことが出来る」と考えた。ここから、ホイッスル三好の「価値あるサブスクづくり」の取り組みが始まった。(次回、10月9日に続く)