第4章 ~2011年から2020年までの10年間ボーダレス化、多様化、高品質化へ、そしてインバウンド需要 ――その①(この章は全体5本)2011年3月11日14時46分三陸沖で東日本大震災が発生した。震源はマグニチュード7.9という非常に大きなエネルギーで、歴史上比類ない被害をもたらした。こうして日本経済に甚大な影響を及ぼし、消費者のライフスタイルや消費が変化するようになった。そして、飲食業の世界にも新しい動きが見られるようになった。「今年の漢字」は例年12月12日、京都・清水寺で発表されるが、2011年は「絆」であった。この年は、国内では、東日本大震災や台風による大雨被害、海外では、ニュージーランド地震、タイ洪水などが発生。大規模な災害の経験から家族や仲間など身近でかけがえのない人との「絆」を改めて認識した一年であった。東日本大震災の直後、全国的に自粛ムードが漂った。上野公園のお花見や、浅草三社祭など、さまざまな行事が中止になった。しかしながら、その動向に対して「自粛をしないことが経済活動を活発にする」という考え方が生まれた。至る所で「がんばれ東北!」「がんばれ日本!」といった文言が盛んに使われ、イベント会場では「東北救済募金活動」が当然のことになった。これらの文言を見るたびに、日本国民は一体感を覚えた。日常も大きく変化した。計画停電や電力の供給量のカットされることに対応して、一般企業では始業時間を1時間程度早めたり、土日2日の連続休業を改めて平日に休日を1日設ける事例も見られた。東日本大震災の後、日本全体に「一体感」が生まれる「自粛をしないでほしい」というメッセージは、逆説的ではあるが、これこそ日本国民が前向きな姿勢をとるための真実をついた言葉であった。きっかけは 2011年4月初旬にYouTubeで流れた「ハナサケ!ニッポン!被災地岩手から『お花見』のお願い」というものである。メッセージを発信したのは岩手の蔵元たちで、以下のような内容であった。「この度、東北で起きた大震災で岩手県は大きな被害を受けました。私の蔵も大きな損害を負いました。義援金や物資もたくさん送っていただきたきました。本当に感謝をしております。『酒を飲んでいる場合ではない』というのがこの東北の現状ではありますが、このままではわれわれは経済的な二次被害を大きく受けてしまいます。人々に癒しを与え元気にする日本酒を飲んでいただくことで、われわれ東北を応援していただきたい。ですから、お花見の自粛をしていただくことよりも、お花見をしていただくことの方が有難いのです。日本酒を飲んで是非明日の活力にしていただきたい。そしてみなぎった活力を少しでいいので被災地に送っていただきたい。ですから、みなさん、岩手の酒を飲むことで支援をお願いします」このような思いは、復興支援のために被災地の産品を消費する活動を広げた。特に、放射線の風評被害を受けている地域の野菜を消費しようと有志の集まりやNPO法人、また大手小売業など至る所で展開された。 「街を解放する」「街で連帯する」活動が盛んになる被災地である仙台では、2011年10月10日に「せんコン」が開催された。これは2006年ごろから地方都市で行われるようになった商店街ぐるみで行う不特定多数の合コンである「街コン」を導入したものだ。せんコンでは仙台市内の43の飲食店が協力し、約1400人が参加した。これがきっかけとなり「東北食の力プロジェクト」が立ち上がった。せんコンの運営に協力した人々に食の分野の人が多かったということもあり、せんコン以降も交流を重ねるなかで、お客さまと共に、より地域の食材を活かしていこうという志の集まりである。せんコンから5カ月後、東日本大震災から丸1年がたった 2012年3月11日には「あるきだそう」をサブタイトルとした「復魂」を開催した。ここでは復旧したキリンビール仙台工場で黙祷を捧げ、市内の飲食店で献杯した。さらに、東北食の力プロジェクトでは地域の地酒と地域の産品を組み合わせるなどのイベントを模索して、2013年6月23日に「海と大地のおくりもの」を開催、仙台市内中心部アーケード街を会場にして行政、外食、生産者が三位一体となって消費者に発信した。せんコンよりさかのぼるが、2011年の5月10日と11日、東京の上野・湯島地区で「第1回食べないと飲まナイト(通称、食べ飲ま)」が開催された。これはこのエリアの飲食店の40店舗が参加し、5店舗3500円(1店当たり700円)のクーポン券を発行。事務局ではパンフレットを用意して、それを手に取ったお客が思い思いに食べ歩き飲み歩きをするというイベントだ。この第1回開催が評判を呼び、東京・神楽坂、東京・赤坂、広島などへ開催地区が広がった。このイベントのポイントは「街を開放する」ということである。商店街や歓楽街は運命共同体である。イベントによって街を訪れたお客にその街の魅力知ってもらい、再来店してもらうことだ。そのために「街で連帯する」という考え方に、たくさんの人が共感するようになった。――次回、3月6日に公開。