第2章 ~1992年から2003年までの10年間チェーンレストランが小商圏化に進み、低価格を追及する――その②(この章は全体5本)「安さづくり」は消えて「専門店」ブームへ すかいらーくの決算は、1994年の上半期売上高6.8%増、経常利益24.2%増となり、私は「ガスト効果が顕在化」という記事を書いた。ここですかいらーくも出店計画を変更して「ガスト」に傾注し、通期では「ガスト」471店、「すかいらーく」332店となった。しかしながら、通期売上高1500億円、経常利益140億円の計画に対し、それぞれ1395億4800万円、106億円となり、「ガストのサービス力の低下で大幅減」という記事を書いた。 「ガスト」にはその後、テコ入れが図られていく。店舗数は1999年に800店となるが、サービスの立て直しが図られて、コンビニエンスなFRとして定着するようになった。また「ガストの宅配」をはじめとした中食を手掛け、販売機能を広げた。 すかいらーくは、創業した当時から「走りながら考える会社」と称されていた。営業体制で大きなうねりを経験することがあったものの、外食マーケットをつかむために実験し、行動するという姿勢は崩していない。 こうして1992年に始まった「ガスト現象」は1995年には消え去り、以前の価格と商品に戻っていった。そして、このころから「とんかつ」「焼肉」「ラーメン」といった専門店の出店事例が増えていった。 専門店はメニュー品目が少ない。だから、取り扱う食材も少ない。そこで、例えばとんかつ専門では、「米は○○産の……」「豚肉は○○の餌でゆったりと育てた……」「付け合わせのキャベツは○○産の……」という具合に、食材の一つ一つのうんちくをアピールした。 このフードサービス業の変化について筆者に解説をしてくれたのは、当時脚光を浴びていたサイゼリヤの幹部であった。彼は筆者にこのように述べてくれた。 「図書館には、大分類、中分類、小分類という概念がある。大分類を『文学』とすると、『日本文学』は中分類で、『江戸文学』が小分類。どんどん、深く、専門的になっていく。それを外食に当てはめると、『総合レストラン』は大分類で、『和食レストラン』が中分類で、小分類は『とんかつ専門店』となる」「大分類の『総合レストラン』が大変人気だった時代は、レストランに入ってメニューを開いて何を食べるかを決めていたのが、経験値が高くなるにつれて、外食に行こうと思ったときに、家や職場を出る段階で何を食べるかが決まっている。だから、とんかつを食べるのであれば和風レストランに行ってとんかつを食べるのではなく、とんかつ専門店がおいしいに決まっている、という考え方になる」 この外食が専門店化しているトレンドの解説は、当時起こっていた現象の必然性をとても分かりやすく示してくれた。 「サイゼリヤ」はイタリア料理の専門店であるが、この料理ジャンルでコーディネートできる。正垣泰彦氏が1973年に創業して以来、イタリアの食文化の素晴らしさを一貫して日本で広めてきた。同時に、価格を引き下げることに果敢に挑んできた。「人時生産性」の高さを追求する会社 サイゼリヤのことは、私が柴田書店で『月刊食堂』編集部に配属されたばかりの1980年代後半、筆者の武川淑(よしお)氏が「素晴らしい外食企業があるんだ……」とさかんに褒め称えていた。 そのポイントはサイゼリヤの経営は「人時生産性」の高さを追求していたことだ。人時生産性とは、従業員1人が1時間にどれだけの利益を上げているのかを示す指標である。 算式は、人時生産性=粗利益÷総労働時間、である。 武川氏は、講演や執筆活動の中で、特に自動車産業を筆頭する製造業と比べると「飲食業の人時生産性が著しく低い」ということを訴えていた。それを、自動車産業並みにすることが飲食業の使命であるという。このあるべき姿をサイゼリヤは目標として進んでいるという。 サイゼリヤの創業者、正垣泰彦氏の哲学についてはジャーナリストの山口芳生氏の『サイゼリヤ革命~世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話』(柴田書店発行、2011年)に詳しくまとめられている。山口氏は筆者と柴田書店の同期で1982年入社、『月刊食堂』編集部では2年間ほど一緒に仕事をした。入社した当時は、ファストフード(FF)、ファミリーレストラン(FR)が急成長を遂げていた。『月刊食堂』は「外食産業のビジョンを切り拓くことがミッション」ということで、チェーンストアを説いていた渥美俊一氏が主宰するペガサスグループの勉強会に参加する機会をいただき、筆者と山口氏はチェーンレストランの在り方について学んだ。 山口氏の『サイゼリヤ革命』の文章は、チェーンレストランの学びが存分に生かされていて、かつ正垣氏に対するリスペクトが満ち溢れている。 この本では、正垣氏のメリハリのあるコメントが散りばめられているが、特に象徴的なことは次のようなものだ。――サイゼリヤが安さに取り組む理由はただひとつ、人に喜んでもらうためである。それも一部の人々ではなく、より多くの人たちに喜んでもらうためだ。価格を下げて、誰でもが食べられる価格になれば、より多くの人に食べてもらえるし、頻度も上がって何度も喜んでもらうことができる。(一部略)。「僕らはいくら難題であっても、それが大事なことであれば逃げずに取り組む。誰もが避けているってことは、その難題に取り組むことが、そのまま差別化になるからね」――。――次回、1月2日に続く。