『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。群馬・栃木で月商2000万円「ステーキ・ハンバーグ どんさん亭」はこうして強くなった(この回のみ)ローカルには、圧倒的に強い「ローカルチェーン」が存在する。いきなり具体名を出して恐縮だが、函館のハンバーガーレストラン「ラッキーピエロ」、静岡のステーキ・ハンバーグ「さわやか」といったところが顕著だ。これらのお店にいくと、料理のクオリティの高さ、ベテランパートタイマーのサービス力の高さに感動する。これらは、地元のお客が求めているものを、本質的に理解して、それを徹底しているからであろう。群馬の桐生に本拠を置き、群馬・栃木エリアに飲食店を23店舗展開している株式会社サンフード(代表/籾山大一郎)という会社がある。同社は、ステーキ・ハンバーグ、海鮮居酒屋、焼肉・しゃぶしゃぶという具合に、多様な業態を擁している。中でも「ステーキ・ハンバーグ どんさん亭」が好調だという。その前橋店を訪ねたところ、ランチタイムからずっと満席状態。フルオープンキッチンで、ライブ感のある店内には「外食の歓び」があふれている。 圧倒的なお値打ち価格で地元客に愛されるサンフードの創業者は現社長、籾山大一郎氏の祖父で、群馬の桐生で4代続く繊維業を営んでいた。しかし、この会社は倒産して莫大な借金を抱えた。そこで、籾山氏の父である現会長が、家業を再建するために帰郷した。当時27歳。借金返済の苦しい日々の中で、「次は、自分の好きな事業をやりたい」と考えていたという。その想いが、飲食業につながった。そのきっかけは、現会長の弟が1976年前橋に「ステーキのどん」をオープンしたこと。その翌年の77年、現会長は桐生に「ステーキのどん」をオープンした。この当時、現会長の「ステーキのどん」は「ステーキ980円、ハンバーグ200g480円」という、当時としては「価格破壊」で提供していた。そして、たちまち繁盛店となった。その後、現会長の弟が経営する会社が株式を公開することになった。それが機となり、サンフードが運営する店舗は「どんさん亭」に名称を変えて、現在に至っている。現社長の籾山氏は大学を卒業後、大手外食企業の2社を渡り、サンフードに入社したのは1996年、「専務」という肩書であった。籾山氏が入社してから行ったことは、新業態の立ち上げであった。同社は業態を多様化していき、現在の陣容が出来上がっていった。サンフード代表取締役社長の籾山大一郎氏。商品開発を担当してから、ヒット商品を続々と生み出した2001年9月、飲食業界はBSE(狂牛病)に見舞われる。2003年12月には、アメリカでもBSEが発生し、日本にUSビーフが入ってこないという事態となった。「ステーキ・ハンバーグ」の売上はBSE前の30%になった。また、こちらの事業部長や店長が退社するといったことが続いた。さらに、2003年にアメリカでBSEが発生して、アメリカから牛肉が入ってこなくなった。現会長(当時社長)からは「お前は何をやっているんだ」と叱責される日々。とは言え、商品開発をはじめ、同社の業態のあらゆることは、籾山氏が現会長に進言して、現会長がそれを決定するという形で行なわれていた。そこで籾山氏は、「親父の言う通りにやっていたら、こうなった」と。現会長は「じゃあ、お前の好きなようにやれ」という。これがきっかけとなり、籾山氏は「ステーキ・ハンバーグ」の一つ一つを、自分で動いて決定していくようになった。社長自ら動いてヒットメニューを生み出すこのような過程で籾山氏は、ランプ肉を柔らかくして、それを厚切りで提供して人気の商品があることを知った。早速、ランプ肉のテンダライザー(肉を柔らかくする)の技術を習得して商品化した。これが「ステーキ・ハンバーグ どんさん亭」の今日のヒット商品、「厚厚カットステーキ」である。これによって、「ステーキ・ハンバーグ」の売上は顕著に伸びていった。次にヒットしたのは「熟成牛の粗挽きハンバーグ」である。これを商品化する前に「ステーキ・ハンバーグ」のお店には「和牛ハンバーグ」が存在した。この商品は、原価がかかってロスも多かった。籾山氏は、「和牛のメニューがあると言っても、売上につながらないのだから」と判断し、特徴がはっきりとして、原価を下げる商品を考えた。それが「熟成肉の粗挽きハンバーグ」である。この商品はトッピングなどでバラエティを広げることが出来た。これらによって、「ステーキ・ハンバーグ」の売上はさらに伸びていった。この業態の先駆的な店舗である伊勢崎店は月商800万円、900万円であったものが2200万円になった。籾山氏は、2019年12月代表取締役社長に就任する。その後、すぐにコロナになった。籾山氏はどのように動いたのであろうか。「コロナは居酒屋業態に大きな影響がありました。営業時間を短縮したことで、お客様からも『これじゃ、お酒が飲めない』という具合に。その一方で、『ステーキ・ハンバーグ』は好調でした。居酒屋業態のお客様が、こちらのランチにたくさんいらっしゃるようになりました」また、コロナに見舞われる前、居酒屋業態と「ステーキ・ハンバーグ」の業態のほかに、食事業態にチャレンジしてみようと、2020年1月に「熟成厚切りとんかつ かつ一群馬」をオープンした。そして、「ステーキ・ハンバーグ」の伊勢崎店が好調だったことから、「この業態をもう一つ出してみよう」と、新規出店の計画を進めていた。それが「ステーキ・ハンバーグ どんさん亭」の前橋店である。サンフードでは配膳ロボットやタブレットを使わない主義だ。お客が店内にいて、ほかの席でスタッフがお客とコミュニケーションを取っている声が聞こえてくる、といった雰囲気を尊重している。こうして前橋店では、いま延べ床面積100坪弱で、安定して月商2000万円を売り上げている。キッチンは「フルオープンキッチン」で構成され、客席フロアと同化している原価率・人件費率を厚くして他店と差別化するこのように、サンフードの従業員が、「お客に楽しんでいただこう」という姿勢は、同社のクレドにまとめて共有化されている。同社のミッションは「楽しい時間と 豊かさの創造」。経営理念は「店はお客様の為に有る お客様の役に立つ事によって 地域に貢献しそこから利益が生まれる お客様の役に立ち 利益を生み みんなで幸せになろう 物も心も豊かになろう」というもの。焼成を終えた商品はデッシュアップカウンターにそろえられて、担当者がワゴンで客席に運ぶ同社が目指していることは「地域一番店」である。同社は、業態の設計はオリジナルで一からつくっている。店内では、メニューのほとんどがスクラッチ(店内で手づくり)である。こうして、大手のチェーンレストランと差別化している。このマインドは、創業のお店で行なった「ハンバーグ200g480円」という、地域の人に歓んでいただくというコンセプトが受け継がれている現在「ステーキ・ハンバーグ」の客単価は、ランチ・ディナーを合わせて1800円。この内訳はフード40%、レイバーが25%。このようにFLコスト65%が、大手チェーンと圧倒的に差別化する要素となっている。このようにサンフードでは、「地域一番店になる」という姿勢が、お店づくり、働く人々、商品設計のすべてに浸透している。ソースをかけるなどの最終調理は、お客のテーブルの前で行ってシズル感を演出する