『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。坪月商147万円! 圧倒的な生産性を築く居酒屋の秘訣KIWAMI(本社/川崎市中原区)KIWAMIが「坪月商の高さ」を追求する理由とは第9回(この連載は全10回)本連載の第1回で、KIWAMIが擁する3店舗の繁盛ぶりを述べたが、ここで再び掲載する。営業を開始したのが速い順に。それぞれの売上は第9期(2023年11月~2024年10月)の最高記録、坪月商はこれまでの最高記録を記している。 まず、「魚もつ」は2016年4月オープン。店舗面積20坪、家賃40万円(坪家賃2万円)、客単価5500円、月商1421万円、坪月商72万円。次に、「きわみ」は2021年7月オープン。店舗面積8坪、家賃40万円(坪家賃5万円)、客単価3300円、月商1171万円、坪月商147万円。そして、「原田商店」は2023年4月オープン。店舗面積9坪、家賃72万円(坪家賃8万円)、売上1084万円、坪月商120万円。 これらの数字を見ていて、店舗規模が20坪、8坪、9坪と、それぞれ小さい店であることが分かる。大きな売上をつくるのは「大きな店」と思われがちだが、KIWAMIの店舗の売上のつくり方は、そのようなイメージを覆している。 3店舗を合算すると「37坪、月商3600万円」ちなみに、これらの3店舗の面積を合算すると「37坪」、最高月商の合算は3600万円。筆者の記憶で「月商3500万円」の飲食店は、1990年ごろ、西新宿のロイヤルホストが挙げられる。この当時のファミリーレストランは100坪100席というのが標準的な規模であった。こちらのロイヤルホストは、ランチタイムが大行列、それが過ぎるとディナータイムまでほぼ満席状態が続くという感じだった。しかし、KIWAMIの店の稼働状況はそれとはまったく異なっている。 まず、「魚もつ」。筆者がこちらの店を初めて訪問したのは2022年の暮れのこと。ある媒体の仕事で、平日の午後、「きわみ」の店舗で代表の阿波さんにインタビューをした。取材を終えて、17時になり、筆者が「『魚もつ』で食事をしたい」と伝えたところ、阿波さんは携帯電話を取り出して、「魚もつ」の担当者に電話をしてくれた。結果は、「満席で入れない」という。筆者は「まさか……」と思った。 そこで、ここから10分ほど歩いて「魚もつ」の店内をのぞいたところ、確かにびっしりとお客でいっぱいだった。「19時から、空くかもしれない」ということでこの時間に尋ねたらところ、対面の2人席が1カ所空いていた。筆者がそこに通されて、席に座ったところ「当店は2時間制となっております」とのこと。こんな、感じで、席は空くことがなく回転していくのであろう。どんなに混んでいても「2分間のメニュー説明」 そして、本連載第2回で述べた、従業員による「2分間のメニュー説明」がある。このメニュー説明は、どんなに店が混んでいても、お客が来店すると必ず行う。疲れた表情は全く見せずに、多少早口ではあるが、淀みなく淡々と行う。営業時間中に行う仕込み作業は、素早く丁寧に。その様子が店前からも見える次に、「きわみ」の店内の様子はこのような感じである。同店は、昼の12時に営業を開始して、翌日の朝型3時に終了する。1日15時間営業で、これを3人体制の2交代制で行う。 筆者は、16時ごろに同店を訪問することが3回ほどあったが、同店が特徴としている、ドリンクがいつも半額になる店の入口近くの立ち席(6席)は、大抵ここで飲むことが出来た。そして、すぐに埋まってしまい、この席を目的にしてきたであろうお客は、立ち席に座ることができないと、一般の座り席に座って飲んでいる。 16時からはだんだんと満席状態になるが、お客は90分くらい滞在して退店するような感じ。1人、2人のお客が多く、大人数といっても4人まで。お一人様とか、気心の知れた友人との利用が多い。30代40代の女性二人連れというパターンも結構見られた。 「きわみ」には夜の20時以降に訪問したことはないが、おそらく17時以降はずっと満席で、お客は90分くらい滞在して、どんどん回転していくという状況なのではないか。阿波さんによると、「昼の12時から翌3時まで営業することで、昼のみ、夕方から夜のディナー、そして深夜飲みと三毛作の営業ができる」という。 「坪月商147万円」という圧倒的な生産性は、15時間営業という、「飲む動機の時間帯」のすべてをカバーしていることで達成することが出来ている。 参入障壁が高く、オンリーワンの店が出来るこれまでの連載で、KIWAMIが全社で「坪月商100万円」を維持できている要因をまとめてきた。では、KIWAMIでは、なぜ「坪月商」にこだわるのだろうか。その理由について阿波さんは、次のように語ってくれた。 ① 家賃比率が下がって、利益率が高い。家賃比率は「10%」が標準と言われている。しかし、家賃比率を5%以下の抑えることができると、その分のすべてが利益となる。これが、「坪月商が高い」ことでもたらさせるミラクルのようなメリットの原泉となる。② 坪月商が40万円を超えると、どんなことをやってもOK。これによって、原価率、人件費率に思いっきり投資ができるために、良い店ができる。これが店の文化として浸透していると、従業員の「作業スキル」や「マネジメントスキル」が速く十分に身に付いていく。③ 「坪家賃10万円」まで出店が可能。「坪月商100万円」を売っていると、「坪家賃10万円」の物件でも家賃比率は10%。このような体制で運営する飲食店は参入障壁が高く、普通の飲食店は出店できない。そこでオンリーワンの店になることができる。KIWAMIが展開している「坪月商100万円」の飲食店とは、ファストフードやファミリーレストランという業態論に並ぶカテゴリーとなっているのではないか。KIWAMIは「坪月商100万円」の業態を独自につくってきた。それは、2014年から10年かけてである。予約を取らいないと、店の営業に集中できるそこで、阿波さんに「坪月商100万円」の業態をつくるためのノウハウをまとめてもらった。① 物件選びが極めて重要となる。最寄り駅の乗降客数は30万人以上が欲しいところ。店の間口5m以上、店前通行量が3000人以上、など。要する「わざわざ行く」場所ではない。② 1坪に3席以上つくること。これでは窮屈になるのではないか、と思われるが、テーブルの広さは50㎝四方があれば、十分にお客様満足を得ることができる。③ 営業時間は15時間とする。昼飲み営業、ディナー帯営業、深夜帯営業の三毛作営業を行い、それぞれの時間帯の客層に対応する。スタッフは2交代制にして、労働時間は9時間とする。④ 入口に立ち飲みドリンク半額席を設置する。このような席を設けることによって、店が繁盛している雰囲気をつくる。お客様がいる店にお客はやって来る。そして、この席がふさがっていても、来店したお客は帰らずに入店する。⑤ 予約を取らない。予約を取ると、お客が来店するまで無駄に客席が空いている状態が生まれる。予約を取らないと、お客が来店するまで席を確保する必要がないため、席効率がアップする。そして、予約管理の必要がなくなるために、営業に集中することができる。店内の目につく場所に、店のこだわりをアピールしている圧倒的な生産性の高さは「企業理念」がもたらした以上、「坪月商が高い店」のメリットとそのつくり方についてまとめた。これは定量的なノウハウである。では、この定性的なノウハウとは何か。それは「企業理念」の存在であると、筆者は確信している。KIWAMIが企業理念を生み出した背景について、本連載の第5回でまとめた。阿波氏は、同社の企業理念を生み出す前は、繁盛店を営んでいながら、常々「居酒屋をやめたい」と思っていた。それが、地元の先輩から「ダメさ加減」を指摘されて、企業理念の必要性を考えるようになった。そして、阿波氏は一年間もがき苦しんで「KIWAMIの企業理念」を生み出した。それが2019年のこと。ここからKIWAMIは「働き方改革」に目覚めて、労働時間数の削減と公休日の増加を推進するようになった。これらが、「従業員満足」をもたらし、「マックスを追求する」企業文化をもたらしたものと、筆者は考えている。