『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。名古屋の飲食店街で急速に店舗を展開する「ぐっとくるダイニング」の仕組みをひも解く(この回のみ)名古屋市内を地盤とする株式会社ぐっとくるダイニング(本社/名古屋市中区、代表/岩田聡)を取材する機会があった。ずばり、強烈な体験が続いた。まず12月4日の夜、名古屋・金山にある同社の飲食店の一つ「サカナのハチベエ」を訪ねたところ、店舗が角地にあって、壁の一面が大きなガラスで構成されていた(アイキャッチ画像参照)。店内のにぎわっている様子が、とても楽しそうに見えていた。店内に入ると、カウンター席に通された。すると35歳くらいの男子従業員が、「私の名前は〇〇です。なんでも聞いてくださいね」と自己紹介をはじめた。続けて「隣りの人は〇〇さんで、〇〇が得意です」という。このような感じで、お客とのつながりをつくっていった。紹介されたその人は「〇〇です。よろしくお願いします」と。なんだか、街のサークル活動の中に、自分が飛び込んで、そのサークルのメンバーと交流を始めたような気分になった。カウンターの上には「必読 これがサカハチ(サカナのハチベイ)の楽しみ方 間違いない!」と、名物料理、人気メニューなどを紹介しているA4サイズのお知らせが置かれてあった。外から見えた、楽しそうな雰囲気のお店の中に入って、従業員がフレンドリーに語り掛けてくれて、さらにどんなメニューを注文すればいいか分かりやすくなっていた。「サカナのハチベエ」のテーブルに置かれた「間違いのない注文の仕方」食事をしていると、25歳くらいの女子従業員が、筆者が首から下げている白いデジカメを見て、「そのカメラ、とても可愛いいですね」という。思わず「ありがとう」と答えた。このお店の従業員の、コミュニケーション能力の高さは素晴らしい。お一人様がハッピーになれる、目的来店のお店である。「立ち飲み」から始まった企業文化が活かされるぐっとくるダイニング代表の岩田氏は、1984年5月生まれの41歳。地元、名古屋市港区の出身で、大学を卒業後、飲食業の会社に勤務。28歳で独立し、2013年4月に会社を設立した。ぐっとくるダイニング代表の岩田氏。大学卒業と飲食業一筋で事業を展開してきた(撮影/間宮博)「ぐっとくるダイニング」とはユニークな社名であるが、その由来は「いわゆる深い感動を受けたときの『グッとくる』と、優秀なチームという意味の『GOOD CREW』を掛け合わせたもので、このどちらの意味にも偏らないように、ひらがなにした」という。12月5日に岩田氏にインタビューをして、筆者が昨晩金山のお店で感動した、従業員とのコミュニケーション体験の話を切り出したところ、岩田氏はこのように語った。「当社は『立ち飲み』から始まった会社で、その慣習が浸透しています。当社の幹部からして、お客様とコミュニケーションを取るということに親しんで仕事をしてきていますから、新しく入った従業員も、それが当たり前のこととして身に付いていきます」「そして当社では、店の中に必ずカウンター席をつくります。私が飲食業を続けてきて、とてもうれしく感じていることは、私がつくった料理を、お客様が『おいしい』って言ってくださる場面なのですね。そこで、従業員のみなさんにもこのような経験をしてほしいと思って、お客様と会話ができるようにしているのです」同社の店舗は、名古屋市内の飲食店街である「金山」「栄」「名駅」で現在25店舗展開している。これらの店舗は総じてシンプルで親しみやすい和食で、客単価は4000円、5000円となっている。この業容は、コロナが落ち着いてきた2023年4月以降、17店舗を増店するという急ピッチである(2025年3月期の年商は13億5000万円)。再現性の高いブランドでドミナント戦略進めるぐっとくるダイニングは、いまから12年前の会社設立以来1年に1店舗のペースで出店していた。6店舗の体制になった2017年7月、金山にセントラルキッチン(CK)を稼働させた。これが、同社が今日の飛躍の原点と言える。岩田氏はこう語る。「これは、労務環境を改善したいという想いがあったからです。これくらいの規模になって、一カ所にみんなが集まって集中して仕込みをした方が効率的ではないか、と。最初は6人で仕込みを行なっていましたが、徐々にそれほどの人数は必要ないと分かって3人体制にしました。さらに、CK専属の社員を雇うことで、店舗の社員はCKに行かないで店舗に直接出勤する、という形にしていきました」ぐっどくるダイニングのお店のメニューは、どちらも焼魚、刺身をアピールしている次に、大きな転機となったのは、コロナ前の2019年9月に「ろばたの魚炉米」というお店をオープンして、それをコロナで撤退したこと。それまで、マルチブランド(同じカテゴリーで複数のブランドを持つこと)で展開していて、みな繁盛していた。そこでこの「ろばたの魚炉米」にはお金をたくさんかけて、繁盛路線を充実させようと想いが込められた。それがオープンして、すぐにコロナになった。ほとんど営業できない時期が続いて、累積損失がどんどん膨らんでいった。そこで岩田氏は、マルチブランドで展開していくことに限界を感じるようになったという。「出店するたびに、新しいブランドをつくっていくのではなく、再現性も利益率も高いブランドに絞って、店舗展開をしていこう」という方向に、考え方を改めた。そこで、2021年10月に「ろばたの魚炉米」をクローズ。同時に、栄にあった「だし家八兵衛」を、「サカナのハチベエ 栄店」に店名を変更した。このように店舗展開は、より分かりやすく、親しみやすい存在感にしていった。コロナがあけたときの急ピッチな展開に備えるコロナの当時、居酒屋業態に見られたことは、それまで手掛けたことがなかったランチ営業や、テイクアウト、デリバリーに参入したことである。しかしながら、ぐっとくるダイニングではこのような路線をとらなかった。同社では「コロナがあけたときに備えよう」と、さまざまな準備を周到に行った。まず、教育研修の体制を整えた。この間に、研修用の動画や採用向けの動画も作成した。さらに、「人材を、効率よく、たくさん採用できる方法」を考えた。それは、「採用の間口を広げること」。つまり、媒体も、紹介も、リファラルも、外国籍も、という具合に、お金を掛けて、ありとあらゆる方法で人材を獲得した。さて、2023年に入るとコロナが落ち着く兆しがみられてきた(5類感染症移行は、23年5月)。そこで同社では、一気に出店攻勢をかけた。「サカナのハチベエ」と並ぶ、ぐっとくるダイニングのブランド「燻銀」まず、同年の4月「炉端焼き 燻銀 名駅西口店」、5月「サカナのハチベエ 名駅四丁目店」、6月「サカナのハチベエ矢場町店」、8月「炉端焼き 燻銀 栄店」と立て続けに出店していった。この「燻銀」と「サカナのハチベエ」が、同社の主要なブランドになっていった。「燻銀」は個室があり、予約が中心となっている業態で、客単価5000円(税込、以下同)あたり。「サカナのハチベエ」は予約もフリー来客も半分ずつで、客単価4000円あたり。「燻銀」は30坪を超える規模も可能。「サカナのハチベエ」は20坪くらいの規模で営業するといったイメージである。このように主要ブランドが定まることによって、名古屋市内の金山にはじまり、栄、名駅といった大きな飲食店街でドミナント展開をすることが可能になった。現在25店舗だが、「名古屋市内で、40店舗は可能でないか」(岩田氏)という。さて、急ピッチな店舗展開を支える人材の採用はどうしているのであろうか。「コロナ前は、『採用にコストを掛けない』ということに自信がありましたが、このような発想は捨てて、『採用にお金を掛ける』という方針に切り替えました。採用のために、媒体も、紹介も、リファラルも、外国籍も、と。こんな具合に、ありとあらゆる方法で人材を獲得しています」同社の正社員数は、コロナ前に38人であったが、この2025年11月末には81人になっている。同社の勢いは、同社の人材がつくり上げている。既存の人材に引かれ、人材が集まり、コミュニケーション能力が高まっていく。会社の中に、良い循環が出来上がっている。