『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。坪月商147万円! 圧倒的な生産性を築く居酒屋の秘訣KIWAMI(本社/川崎市中原区)全社集会「キックオフ」で決意表明し、従業員の総意をまとめる第6回(この連載は全10回)「キックオフ」で、全従業員がお互いを知るKIWAMIでは、「キックオフ」と称して、年に1回従業員全員が集まる日を設けている。「その目的はただ一つ、会社を良くするため」(阿波さん)同社では「キックオフ」を創業した年から行っている。当時は、ものすごく劣悪な労働環境で、従業員の全員が「つらい」と思いながら頑張っていた日々であったが、その後、同社には「企業理念」が誕生して、「働き方改革」を進めていき、「キックオフ」の内容や目指すところも変化していった。同社の「キックオフ」は2部構成になっている。第1部は、従業員全員が集まって、阿波さんが「決意表明」をして、従業員全員の「勉強会」を行う。第2部は、従業員全員に加えて、同社の「業者さん」にも入ってもらい、阿波さんが「業者さん」と「従業員」に「決意表明」を行う。第1部の最初は、従業員全員に一人ずつ自己紹介をしてもらう。その内容は、自分の年齢、いつ入社したか、いまどこの店で働いているか、ということ。同社の店舗数は3店舗であるが(2025年4月末現在)、社員18人、アルバイト24人と、比較的に多くの人数がそろっている。そこで、この「キックオフ」で初めて同じ会社の人と会うという人がたくさんいる。「キックオフ」は、従業員の集会が第1部で、自己紹介から始まる「わが社の常識」を従業員全員でつくる自己紹介がひと通り終わってから、KIWAMIの「労務マトリクス」について説明をする。これは、一番左の列に「役職」が書かれてあり、右側の行には、それぞれの役職の人に「やってほしいこと」が書かれてある。この「労務マトリクス」を解説していく上で、同社が最も大事にしていることを説明する。それは「マインド」というものだ。「マインド」とは何か。それは、「KIWAMIの常識」。同社ではこの内容を毎年つくり変えていて、これをつくり変える場面が、この毎年行っている「キックオフ」とのこと。この「マインド」をつくり変える方法は、ここに集まっている従業員の一人一人に、「こんな人と働きたくない」ということを発表してもらうことから始まる。これを、同社では「キックオフ恒例」の、「古今東西ゲーム」と呼んでいる。例えば、「ウソをつく人」とか「他人の悪口を言う人」というのが挙げられてくると、その逆の内容を、わが社の「マインド」の候補としてチェックしていく。つまり、「ウソをつかない」とか「他人の悪口を言わない」というのが「マインド」の候補となる。そこで、一人一人の発表が3周くらいしてから、真の「マインド」を絞り込んでいく。この段階で、90くらいの「一緒に働きたくない人」の文言が挙がっている。その絞り込む方法は、「マインド」の候補に挙がった文言を、ここにいる従業員に問いかけて、「そう思う」という文言に挙手をしてもらう。つまり、「一緒に働きたくない人は、『ウソをつく人』ですか?」と全員に問いかけてみて、全員が挙手をしたら、真の「マインド」に決定する。挙手がまばらであったら、真の「マインド」に採用しない。「一緒に働きたくない人は、『ウソをつく人』ですか?」と問いかけると、全員が挙手をするが、「一緒に働きたくない人は『口のにおいが臭い人』ですか?」と問いかけた場合に。「『口のにおいが臭い人』はそれほどでもないか……」と思うようで、挙手がまばらになる。「マインド」とは、「みんなが、そう思う」ということがポイントになっている。こうして、その年の「マインド」は50くらいの文言にまとめる。「古今東西ゲーム」は、従業員全員の自己紹介が終わってから行うことであるから、「従業員の意思を団結させる」という狙いが込められている。ここで、従業員が「一緒に働きたくない」と言っているのだから、これは「絶対に守ってもらう」ということだ「マインド」(=KIWAMIの常識)をつくるために、全員から発言を求める「作業」と「マネジメント」は時間が解決する「労務マトリクス」の中には、「マインド」のほかに、「作業スキル」「マネジメントスキル」がある。さて、仕事において重要なことは、一般的に「作業スキル」と「マネジメントスキル」であると言われている。「作業スキル」とは、接客技術や調理技術のこと。今日の営業を回す能力のこと。「マネジメントスキル」とは、集客の提案、数値管理、人材協力などを計画的に行うこと。しかしながら、KIWAMIでは「作業スキル」も「マネジメントスキル」も、あまり重視していない。最も重視しているのが「マインド」である。では、作業スキルとマネジメントスキルを、なぜ重視しないのか。それはずばり、実際の「作業スキル」と「マネジメントスキル」は、月日が経つと解決されるものであるから。例えば、KIWAMの営業部長は、もつの串打ちを「1時間に250本」行うことができる。「これは、すごいことだ」と。この人は30代半ばの若い管理職であるが、串打ちの技術が日々進化しているという。つまり、串打ちを毎日しっかりとやっていると、速く、上手になっていく、ということだ。だから、「作業スキル」も「マネジメントスキル」も「時間が解決してくれる」ということだ。「作業」とは、毎日しっかりとやっていると「自分の成長」が感じられるもの。「作業スキル」とは「やれば、できる」ことなのだ、と。「マネジメントスキル」も同様のことだと述べる。毎日一生懸命仕事をしていると、マネジメントに対する意識が高まる。「マインド」「作業スキル」「マネジメントスキル」と、この3つの中で、唯一時間が解決しないものは「マインド」である、という認識だ。「こんな人と働きたくない」という意見を白板に書き記して、絞り込んでいくそこで2024年の「キックオフ」でつくられた「マインド」の一部を、ここで紹介しよう。・他人の足を引っ張っていない・笑顔で元気よく挨拶をしている・感謝をしている・思いやりがある・相手のことを考えている・謝罪が出来る・報連相をしている・業者様に横柄になっていない・KIWAMIが好きである・仲間の悪口を言っていない・人のせいにしていない・人の意見に否定から入っていない・笑顔がある――このような感じである。これら50項目を、従業員の全員で決める。だから、この「マインド」は従業員が守るベきこと。「こんな人になりましょう」という、KIWAMIの従業員の総意である。