『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。コロナ禍を経験して、お店のリブランディングを行い京都で地場を築く「アホウプロジェクト」の展望(2回連載 第1回)飲食業界には「居酒屋甲子園」という勉強会組織がある。これらは地方のブロック単位で活動を行っていて、そのハイライトとなるのが秋に行われる「居酒屋甲子園全国大会」である。これは地区予選を経てきた5つのチームが、自社(自店)の取組とその成果について発表するもの。これに対し会場の聴衆が投票して、「優勝」のチームを決定する。筆者は「居酒屋甲子園全国大会」を、2006年に開催された第1回から継続して観ているが、ここでは2024年10月の第17回で優勝した「乾杯酒場 アホウどり」(以下、アホウどり/京都)について、2回にわたって述べたい。そのポイントは、コロナ禍にあって、組織が崩れかけていたが、営業方針を大転換して、結束力をつくり上げたということ。同チームの全員の眼に力が感じられ、清々しい笑顔があった第1回の記事は、この全国大会で優勝した直後の2024年11月26日に取材した内容からまとめたもの。そして、次週の第2回は、その1年4カ月後の26年2月17日に取材したものである。この2つの記事から、「アホウどり」の歩みを読み取っていただきたい。飲食業はお客を笑顔にする距離が近い「アホウどり」を運営するのは株式会社アホウプロジェクト(本社/京都市上京区、代表/泉川武士)。同社代表の泉川武士氏(42歳)は、NSCの養成所で学びお笑いの世界を目指していた。しかしながら、居酒屋でアルバイトをしている過程で、感動的な体験を重ねるようになった。そこで、「目の前の人を笑顔にすることは、お笑いも飲食も同じこと。ただし、飲食の方が人との距離感が近い」と、この世界に魅入られた。代表の泉川武士氏は「お笑い」を目指していたが、「お客との距離感が近い」ということで飲食の道へ29歳のときに、焼鳥店での独立開業者を育成するお店に入り、3カ月後に独立。2014年11月、創業の居酒屋をオープン。その後、リブランディングを行ない、24年10月の当時は「アホウどり」3店舗、スポーツジム2施設を擁していた。「アホウどり」の居酒屋甲子園でのプレゼンテーションは「挑戦をもっと優しく」というメッセージでまとめていた。ここには、泉川氏の「若い人たちを応援したい」という想いが込められていた。泉川氏がこのような心境になったのは、修業時代に積み重ねた経験からである。「『アホウどり』の「アホ」とは、いわば誉め言葉なのですね。何かにひたむきになっている若い人を温かい気持ちで認めているといった状態です。私は、それまで居酒屋や焼肉店で働いてきて、このような雰囲気の店をつくりたいと考えていました」泉川氏が、開業にあたって立てた誓いは、「店は3カ月間休まないこと」。毎日18時から翌朝の4時まで営業した。客単価3000円で月商300万円を売るようになった。ターゲットを定めず多店化したことの弊害そこでだんだんと人材が増えてきて、ご縁があったところから物件を紹介されるようになり。2016年1月、立命館大学近くの北野白梅町にオリジナルブランドの「京都炭火焼鳥アホウどり」をオープンした。このお店は、先に述べた「アホ」のコンセプトと合致して、お客の学生が盛り上がって大層繁盛するようになった。最初の店のお客は学生が中心でフレンドリーな雰囲気になっていたが、お店を展開していくと老若男女さまざまなお客が来店するようになった。静かに酒を飲んで食事をするお客も増えていった。次第に、本来求めていた「アホウどり」の感覚と合わなくなっていった、という。泉川氏は、「これはわれわれがターゲットをしっかりと想定していなかったことの現れですね」と語った。そんな中でコロナ禍となった。スタッフが不安を抱え込んだためか、チームがバラバラになった。グループLINEでコロナ対策のことを話しているときに、お店に対する不平不満が上がってきたりした。京都・聖護院の「アホウどり」。至近距離に京都大学の熊野寮(450人収容)がある理念に賛同してくれない人を辞めてもらうここで泉川氏は、大きな決断をくだした。それは、「アホウどり」の理念に賛同してくれない人、マネージャークラスも、コンサルタントの人物も含めてすべて辞めてもらった。お店は4店舗をあるうちの2つを閉めて、学生が多い北野白梅町店と聖護院店で再スタートを切った。こうして。2023年1月からリブランディングに取り掛かった。真っ先に取り組んだことは、ショルダーネームの変更であった。ここでお店のターゲットをどうするか、自分たちが得意なことはどんなことか、ということを追求していった。そこで「僕らが得意なのは学生さんだ」と。そして「学生が週2回通える焼鳥屋」というショルダーにした。このコンセプトに沿って、メニューやサービスを変更し、2800円だった客単価を2100円に引き下げた。そして、毎日22時に行う「アホウナイト」というイベントが定着するようになった。これは「あの店に行ったら友達が増える」というコンセプトで、来店しているお客様にショットグラスでテキーラを配る。そこで、マイクパフォーマンスで「テキーラ必要な人――!」と言うと、お店にいるお客全員が「はい!」という。そこで「気になるあの人、気になるあの子と、是非テキーラで乾杯してください――!」と言って盛り上がる、というもの。こうして北野白梅町の店から3店舗増やして「アホウどり」は4店舗となった。聖護院のお店は平安神宮にも近く、インバウンドの利用も見られる泉川氏は、こう語る。「ナショナルチェーンの居酒屋さんは客単価を上げようという動きがあって、これでは学生さんが利用できませんね。『アホウどり』の店頭の看板にある『生ビール290円』『メガハイボール290円(税込319円)という価格を見て来店されるお客様はいますが、当店のポイントは『1100円』の飲み放題です。最近の学生さんは生ビールを飲む方は少なく、生ビールを飲みたい方にはプラス100円。この飲み放題での学生さんの飲み方はお茶割が多くて、これによって原価率も安定します」「学生が週2回通える焼鳥屋」というショルダーにしたことで、このような雰囲気が好きな大人のお客も来店するようになった。この飲み放題も「気持ちが学生さんならOK」としていて、気兼ねなく楽しんでいただくようにしている。リブランディングの過程で、「『アホウどり』にとっての、リピーターの基準値」をつくった。それは「名前で呼ぶことができるお客様」ということ。このリピーターのことを「ファミリー」と呼ぶようにした。営業日誌には、「その日に来店したファミリーが何人いたか」という数字を書いていて、「この数字を増やそう」と考えた。そこで、「2回目以降来店のお客様の売上が50%以上」という指標をつくった。例えば、北野白梅町店は1日60人のお客が来店するが、このうち名前で呼ぶことができる「ファミリー」は20人くらい、3分の1程度を占めている。「アホ人十一箇条」で「アホ人」を明文化「アホウどり」では2020年4月、コロナ禍になったタイミングで「アホ人十一箇条」をつくった。泉川氏は「アホウどり」を立ち上げてから、常々「アホ人になろうね」と説いていたが、あるとき「それはイメージしにくいです」と言われたことがあった。当初「それは悲しいな」と思っていたそうだが、それは明文化していなかったことが問題であったと気づいた。では、「アホ人」とは、どんな人か。泉川氏は「だれからも応援される人、応援したくなる人、挑戦を楽しんでいるような人のことです」と語った「アホ人十一箇条」とはこうなっている。「クシャ」笑顔で元気よく挨拶している「ビシッ」いつも清潔でオシャレにこだわっている「ファイアー」健康的でエネルギッシュである「ポジティブ」できない理由を考えるより、理由を考えている「ウソウソ」相手の話を素直に聞いている「チャレンジ」向上心を持って日々挑戦している「ラブ」自分を愛し、周りを愛している「前のめり」受け身でなく、自ら考え行動している「時は命」自分の時間も他人の時間も大切にしている「吉本」お笑いが大好きである「感謝」命に感謝、すべてに感謝している「居酒屋甲子園全国大会」の壇上で、「アホ人十一箇条」をそれぞれのポーズと共に披露した「アホ人十一箇条」には、一つ一つにポーズを決めて、をこのポーズと共に毎日朝礼で唱和していると語っていた。この当時「アホウどり」の今後について、泉川氏は「日本一学生さんを応援して、学生さんから応援される居酒屋でありたい。京都の次は、大阪の学生街に出していきたい」と語っていた。(4月23日に続く)