『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。青森「地雷也グループ」と名古屋「ぐっとくるダイニング」の共通点に飲食業の新しいトレンドを見た(この回のみ)1月に公開した筆者の記事は、青森の「地雷也グループ」と、名古屋の「ぐっとくるカンパニー」のお話であった。この二つの会社には共通点がたくさん存在した。この二社を取材したのは、この共通点を狙って行ったのではなく、たまたま、偶然である。若い経営者で、価値の高いメニューを志向創業が、2011年と2012年。地雷也グループ代表の小林達哉さんは、1992年2月生まれで現在33歳。青森市内の高校を中退して、青森市内の飲食店でアルバイトを行ない、「もっと大きな街で起業したい」と、叔父を頼って仙台に渡る。このとき17歳で、「ホタテの食べ放題」の居酒屋を開業。転じて「鉄板焼き」を営んだが、2011年3月11日の東日本大震災に見舞われる。失意のまま、青森市内に戻って、紆余曲折がありながら、2011年10月に、現在の地雷也グループの原点となる居酒屋をオープンする。小林さんは17歳で飲食業に就いて、19歳のときに地雷也グループの基盤をつくった(撮影/福田真紀)ぐっとくるダイニング代表の岩田聡さんは、1984年5月生まれで現在41歳。名古屋市内の大学を卒業後、飲食業の会社に入り、2012年に独立して飲食店を直営1店舗、業務委託1店舗を運営することから始まった。岩田さんは、飲食業の会社に勤務した後、28歳で「立ち飲み」業態で独立した(撮影/間宮博)業種が和食(シンプルな調理)で、客単価5000円。地雷也グループは、地元の新鮮な産品を使用して、原価を45%掛けて、メニュー品目を数多くラインアップした。理由は、青森市内という商圏人口が少ないことから、ヒット商品で絞り込むのではなく、顧客が「いろいろな食べ物を食べてみたい」といった動機に沿うことが重要だから、とのこと。現在の店舗数は5店舗で、それぞれ140品目程度をラインアップしている。「客単価5000円」とは、高く感じられるが、「東京の感覚だと8000円、9000円の価値がある」ということで、県外から訪ねてくるお客から「この内容で、この値段は安い」と言われているという。ちなみに、同店の客層は、インバウンド2割、県外からの観光客5割、地元客3割とのこと。平日は、県外のお客が多く、地元客は週末に利用する。地元客は会社の飲み会といった法人需要である。地雷也グループの主要なメニューは、黒板や白板で表示しているぐっとくるグループの場合も、焼魚、刺身といったシンプルな調理でなじみやすいメニューをラインアップしている。一番の特徴として挙げられのは、主要ブランド「燻銀」で「150分飲み放題 大トロ鯖一本焼きコース1人5000円」(2名から受付)を「当日注文でもOK」にしていること。内容は、①お刺身5種盛り合わせ、②混ぜて食べるあったか明太子ポテトサラダ、③大トロ鯖の一本焼き、④丸ごと玉ねぎ焼き、⑤骨付き親鳥の鶏油焼き、⑥南部鉄器で炊く鯛めし、⑦しじみ汁、白菜の浅漬け――以上。同ブランドの顧客は、このメニューのリピーターになる。そこで、利用客の40%がこのメニューを注文している。「大トロ鯖の一本焼き」は、ぐっとくるダイニングを象徴するメニュー同じ条件を整えて顧客の期待に応える路面店で、ドミナント戦略。地雷也グループは、創業の店舗こそ2階に位置しているが、2号店から現在の5店舗目まですべて路面にある。創業したのは、青森市内の飲食店街である本町(ほんちょう)で、このエリアで4店舗展開。その後、本町の隣町である新町(しんまち)通りに、2024年9月、25年9月(移転オープン)とワン・ツーで出店した。これによって約1㎞の線上に5店舗を展開している。お客が来店して、満席のときに系列店を紹介すると、8割のお客がそのお店を利用してくれるという。新町通りで展開している2店舗は「ねぶた」でブランディングしているぐっとくるダイニングは、創業の街である名古屋・金山でドミナント出店を行った。コロナ前までマルチブランド戦略(一つの製品カテゴリー内で複数のブランドを展開すること)を取っていたが、コロナ禍を経験して、それを修正。再現性の高い「燻銀」と「サカナのハチベエ」を主要ブランドとして整えて、この2つを核として、金山エリアに加えて、栄エリア、名駅エリアと、名古屋市内の主要な飲食店街でドミナント戦略を行っている。ぐっとくるダイニングがドミナント展開しているエリアでは、独特のほのぼのとした外食シーンが描かれているブランドが違っても、系列店のメニューはほとんど同一地雷也グループ、ぐっとくるカンパニー共に、メニューは「シンプルな調理の和食」と前述したが、地雷也グループの5店舗、ぐっとくるカンパニーの25店舗ともに、ほとんどの店舗のメニューは同一である。飲食業では「新メニュー」「新業態」の必要性があると言われるが、この2社の動向を見ていて「お客は食べたいものを食べて、繁盛店になっているのだから、あえて新メニュー、新業態をつくる必要がないのでは」という感覚を抱いた。要するに、「感動レベルの、いつものメニューが食べたい」ということだ。マーケットの中で「勝ち残る存在」になる「当店は、地域ナンバーワンを目指しています」と、利用客に伝える地雷也グループ、ぐっとくるダイニングともに、会計時に担当者が、筆者にこのセリフを語り掛けた。それも、はっきりと口調で。眼に力があった。筆者は、12月1日の夜に訪ねた地雷也グループのお店で初めて体験した。そのとき「こんな決意表明を、わざわざお客さんにしなくてもいいのでは」と思った。そして、同じ系列店を訪ねて、会計をしたところ、ここの担当者の、同じことを言う。「なぜなんだろう」と。そして、12月4日の夜、名古屋のぐっとくるダイニングでも同じ経験をした。そこで、地雷也グループの小林さん、ぐっとくるダイニングの岩田さんへのインタビューを振り返って気付いた。それは、二人とも「地域ナンバーワンであることが重要だ」と語っていた。マーケットの人口が減ることも、働く人が足りなくなっていくという懸念も、すべて「地域ナンバーワンであることが解決する」と言っていた。「これから、マーケットがシュリンクする」という発想は弱腰である。マーケットがシュリンクしても、伸びていく飲食業は存在する。それは「地域ナンバーワン」の地位を築いた飲食業である。これからの飲食業は、マーケットの膨らみに便乗することが出来ない。自らが「勝ち残っていく存在」でなければならない。この二つの飲食業で経験した「当店は、地域ナンバーワンを目指しています」というセリフは、「言霊(ことだま)」なのである。「言霊」はそれを唱え続けることで実現する。地雷也グループでは、2024年9月にオープンしたお店の店長にも取材したが、その店長はミーティングで、「その発想、やり方は、地域ナンバーワンにかなっているか」と、発言者に対して問いかけるという。「地域ナンバーワン」とは、目標であり、指標になっている。ここに掲げた、地雷也グループと、ぐっとくるカンパニーの共通点は、飲食業界の取材記者である筆者にとって、いまどきのトレンドとして心に刻まれた。