『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。「地域密着」でドミナント戦略、さらにチェーン展開も行う「ピアンタ」が強い理由はここある(この回のみ)筆者は、飲食店の記事を書いていて「地元密着」という言葉を使う。「地元密着」とは、文字通り「地元のお客様に密着している商売」のことである。これを全うするためには、2つの要素が重要になるのでは、と考えている。1つめは、「大手が狙わない場所に出店すること」。2つめは「地元の客様に愛される接客を行っていること」。「地元密着」のお店ということでは、「私鉄沿線にある個人店」という存在がある。しかし今回は、「地元密着」コンセプトで多店化している事例である。筆者は、外食記者歴40年の者だが、正直に言ってこれまで、このような事例と巡り合う機会がなかった。この路線は、飲食業の店舗展開の可能性を広げてくれるものと確信している。アルバイト先でチームづくりの才を発揮この事例とは、カジュアルイタリアンの「ピアンタ」である。運営をしているのは株式会社ピアンタカンパニー(本社/東京都北区、代表/伊藤秀樹)。店舗は30坪前後が標準で、板橋駅前店、仲宿店、志村坂上店、中野南口店、十条店、王子店、日暮里店、町屋店と、「板橋区・北区・荒川区エリア」でドミナント出店している。同店のメニューは、パスタとピッツァ。客単価はランチ1500円、ディナーで3500円から4000円あたり。同店のことで筆者が最も推したい部分は、接客担当者がみな若い女性で、フレンドリーで言葉遣いが丁寧で「おもてなし」を感じさせる、ということだ。内装は、清潔感があり可愛らしく整ったダイニング。お店の多くは住宅地の入口にあって、小さな子供連れのファミリーも多い。 代表の伊藤秀樹氏(47歳)の経歴を簡単に紹介する。伊藤氏は調理師専門学校を卒業後、都市ホテルの調理部門で働き、その職場の先輩に誘われて、先輩が立ち上げたフレンチで働いた。同店では2年間務め、ナンバー2になっていた。そして、同店は銀座に移転することになり、2カ月間の空白が出来た。その銀座にお店が出来るまでの間、伊藤氏がつなぎでアルバイトしたのが、現在「ピアンタ」の本店である「板橋駅前店」であった。JR板橋駅東口から徒歩2分程度の場所にある「板橋店」。外観はコクーン(まゆ)のようで記憶に残る「板橋店」の店内の様子。客層は、女子2人組、ファミリー、会社の飲み会等さまざまこのとき、伊藤氏は21歳。当時の同店は旅行会社が副業として営業しているお店で、若いとはいえ、レストランのナンバー2の実力がある伊藤氏にとっては若干物足りないものがあった、という。伊藤氏の実力は、お店の中にたちまち見違えるように活気をもたらした。そして、欠かせない存在になった。先輩のお店が銀座でオープンすることになったが、先輩に詫びを伝えて、「ピアンタ」の料理人を続けることになった。伊藤氏はチームづくりに才を発揮した。一緒に働くメンバーは、自分と同世代の大学生アルバイトたちで、「サークルのような雰囲気で、店が回っていた」(伊藤さん)という。そして、2号店を出店。20坪の2階立てで月商1200万円をただき出した。伊藤氏は専門学校時代の同級生を招いて、お店の刷新を図り、そして、3号店、4号店と、店舗を展開していった。2017年12月に株式会社ピアンタカンパニーを設立。ここより、伊藤氏が代表の飲食業経営が始まった。地元の人しか知らない(ような)場所で営業会社をつくった翌年にピアンタカンパニーの4店舗目となる「中野南口店」をオープンした。この店舗を軌道にのせるために半年間を要したという。この当時、一緒に奮闘してくれたメンバーが、いま同社の幹部として会社を支えている。これ以降、同社の現在のコンセプトである「板橋区・北区・荒川区エリア」ドミナントにシフトしていく。ここでまず、オープンしたのが「十条店」。十条の名所と言える「十条銀座商店街」にあるが、メインの通りから50mほど路地に入った場所。率直に述べて、地元の人しか知らないお店である。この立地こそ、「ピアンタ・コンセプト」と言える。「十条店」は、十条の大きな商店街から一本わき道に入った場所にあって、まさに地元の人しか知らない(ような)場所にあるしかしながら、コロナが直撃した。従業員のトレーニングが始まっているが、お店を営業するめどが立たない。家賃が毎月出ていくが、国からの連絡が無い。経営に焦る日々が続いたが、「従業員を守る」という信念を貫いた。伊藤さんは、自分の想いと将来のビジョンを毎日A4一枚に綴って、メールで従業員に発信し続けた。そして、コロナが終息して、従業員は誰一人とも辞めることなく、今日に至っている。「十条店」に続いて、「王子店」を2021年2月にオープンした。JR王子駅から徒歩で3分程度の立地で、地元の人が行き交う商店街の路面にある。「十条店」「王子店」ともに、大きなターミナルではない。むしろ生活感が漂っていて、年配者、若いファミリーと多様な世代が同居している。伊藤氏は、「このような立地で、スーパーに子ども用の椅子を付けた電動自転車が多いところが、『ピアンタ』が求められている立地だ」と語る。今回、筆者は「ピアンタ」の記事を書くために、板橋駅前店、十条店、王子店、日暮里店を訪ねた。そして、地元密着を成立させる要件というものを感じ取った。それは、客層が限定されないこと。若い女性の二人連れ、幼児を連れた若いファミリー、職場の中高年の食事会、という具合に、どのお店も客層は多様であった。「日暮里店」は、JR日暮里駅近くの再開発ビル1階に出店。当初から地元のお客に親しまれている地域社会の「サードプレイス」「コミュニティ」では、「ピアンタ」のどのような存在感が、このような多様な客層を引き付けるのだろうか。筆者は、冒頭で「接客担当者が若い女性で、みなフレンドリーで言葉遣いが丁寧で『おもてなし』を感じさせる」と述べた。伊藤氏は、同社の接客担当者の就労パターンをこのように解説する。「フロアスタッフは、4年制の大学生女子が多い。大学卒業と同時に『ピアンタ』も卒業して、ほかの企業に就職するが、後に『ピアンタ』に戻って、社員として就労する人が増えている。現在30人が在籍する社員のうち7人が、このパターンです」彼女たちが学生時代に体験した「接客」とは、前述した多様な顧客である。特に、年配者や、若いファミリーからは「感謝」されることも多かったことであろう。このような「ピアンタ」での接客体験が、居心地のよさとして記憶に残って、「また、働きたい」という動機をもたらし、フレンドリーでかつレベルの高いおもてなしに活かされていくのであろうちなみに、「ピアンタ」の既存店はすべての店舗で対前年売上をクリアしている。昨年の10月より、ランチタイム営業をこれまでの11時~15時から、11時~14時30分に短縮した。また、板橋駅前店では23時30分まで営業していたが、21時30分ラストオーダー、22時閉店と、営業時間を1時間30分短縮した。そのような状態にあっても、板橋駅前店は売上を伸ばし続けている。「スターバックスコーヒー」が日本に登場したのは、1996年のこと。そのときのキャッチフレーズは「サードプレイス」というもの。「自宅でも、職場や学校でもない、第三の場所」ということであった。当時の日本の外食産業は「急成長」が収まっていた。「お腹を満たす」から「心が癒される」という存在感に変化していった。ピアンタの魅力は、まさに地域社会のおける「サードプレイス」ではないか。お客様が「地元のお店」で心が癒され、そのようなお客と接するスタッフも楽しくなる。ピアンタの魅力とは、「地域社会における、サードプレイスの、コミュニティ」ではないかと、筆者は感じ取っている。そして時折、同社のお店で食事をしては「素敵だな」と、この雰囲気に浸っている。