『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。東京・東エリアの下町でドミナント展開している「かんぱい家」が地元常連客に愛されている秘訣の数々この回のみ東京の東エリア(西葛西、葛西、平井、亀戸)に「かんぱい家」という居酒屋が5店舗ある。筆者は昨年、これらのお店を折に触れて訪ねた。その理由は、これらのお店が取り組んでいることが、お客にとても分かりやすく伝わっているから。そして、これらの試みが、同店の顧客とお店自体にどのような効果をもたらしているのかを体感したいと思い、何度も訪ねた。同店の取組みとは、このような内容。① 「昼から飲んで何が悪い」② 曜日替わりの「爆裂価格」③ フードメニューが140品④ 「社員合宿研修」の日にちを告知同店がこれらを行っている理由について、画像を交えてこれからじゅんじゅんと説明していく。同店を展開してるいのは株式会社G-vision(本社/東京・江戸川区、代表/伊藤穣二)。同店が展開しているエリアの中心部、西葛西に拠点を構えている。同社では「かんばい家」のほかに、「立ち飲み酒場 のまど」を1店舗、またバーチャルレストランのブランドを擁している。創業期にコロナを経験して、方針が整っていくG-vision代表の伊藤穣二さん(42歳)は、地元で生まれ育った。幼少期に「つくね」を食べて、「世の中に、これほどうまいものがあるのか」と感動し、「将来は焼鳥屋さんになりたい」と思い描いていたという。そして、21歳で焼鳥居酒屋の会社に勤務。その後、立ち上がったばかりの飲食の会社に入社して、商品開発や店舗開発に従事し、同社に10年間勤務した。同社の店舗は20店舗に近づいていた。しかしながら、伊藤さんは体調を崩して入院。「人生は一度だけだから、やりたいことをやろう」と。2018年7月、33歳のときに居酒屋を起業した。G-vision代表の伊藤穣二さん。飲食業の勤め人として経験を積んで2018年に独立起業したこのお店が「かんぱい家」西葛西店(12坪24席)である。夕方5時から、翌朝5時までの営業体制。夕方から夜にかけて、お客はやってきたが、12時を回るとパタリと来なくなった。そこで行ったのが「出前」。フィリピンパブ、スナック、雀荘等にメニュー表を持ち込んで営業を行ったことで、売上はついてきた。雀荘では「焼鳥は手が汚れない」と人気を博した。月商400万円の当時、出前の売上が10%を占めていたという。2号店は西葛西の隣町、葛西に出店。ここで経験したことが、同社の取組み①の「昼から飲んで何が悪い」の路線をもたらした。葛西店がオープンしたのは2020年2月。この日付が示すように、お店をあけてすぐにコロナになった。そして、この物件は、夜1時までしか営業ができなかった。葛西店の近くでラーメン店を営んでいる人が「ラーメンを教えてあげる」ということで、ラーメン店を始めたが、これが全然うまくいかない。そこで「昼飲み」を検討するようになった。「深夜営業」を行わないと「良い循環」が出来るこの背景には、居酒屋チェーンに勤務していた当時の、とてもつらい経験が存在した。このお店は24時間営業をしていて、店長を務めていた伊藤さんは、12時間の勤務を終えたときに、次のシフトのアルバイトが来ないと、必然的に「36時間勤務」が強いられた。「このような事態は絶対に回避したい」と。そこで「『昼飲み』を行って、深夜営業をしない」という方針に至った。コロナで「営業自粛」が要請されていた当時のこと。従業員の全員を集めて「営業自粛をぶっちぎって営業するぞ」と宣言。するとお客はたくさん詰めかけるようになった。「昼飲み」のコンセプトを、従業員のTシャツにプリント。これが店内の雰囲気を盛り上げる「深夜営業をやらなければ、小さなお子さんがいる従業員は家に帰って、朝お子さんとコミュニケーションを取ることが出来ます。結果、職場に明るい雰囲気が出来て上がっていきます」こうして、3号店を2021年2月「西葛西」に(西葛西では2店舗目)、4号店を23年4月「平井」に、5号店を24年4月「亀戸」にと、現在の陣容を築き上げていった。「昼飲み」は現在、1号店の西葛西の店舗以外の4店舗で行っている。「昼飲み」はランチ営業でもあるから、同店の顧客にとって利用動機の幅は広くなった。西葛西にある「豚のかんぱい家」での「昼飲み」の様子。みな穏やかに昼飲みを楽しんでいる「昼飲み」の需要は、フリーのお客よりも、地元の常連客に知られていることで利用頻度が高まり、キープボトルの量が増えていく筆者が初めて「かんぱい家」を訪ねたのは昨年3月、亀戸店であった。このとき、最初に目にして驚いたのが、この画像、「爆裂価格イベント」と「安心の飲み放題」である。店頭のA看板で告知されていた。亀戸店の店頭に2つ並べて置かれている「爆裂価格イベント」と「安心の飲み放題」のA看板お店そのものは「安いだけじゃない」同店を訪ねた日は「木曜日」であった。そこで、「爆裂価格イベント」の「木曜日」に該当する「マグロ タコ ぶつ盛」39円(税込42円)を注文。すると、届いたのがこの画像の「盛り合わせ」であった。但し書きとして「アルコールご注文の方、1テーブルに1人前となります」とある。とは言え、グループで訪れた場合に「まず、これを注文しよう」となるであろう。「かんぱい家に来たら、これを注文しないと」といった、いわば「かんぱい家」を楽しむ入口といった存在感がある。木曜日の「爆裂価格イベント」は、こちらの「マグロタコぶつ盛り」39円(税込42円)筆者の場合、1人でこの盛り合わせを食べた。「面白い!」と思いながら、「どうやって利益を出しているのだろう?」と、興味津々となった。この「かんぱい家」における、「爆裂価格イベント」「安心の飲み放題」の存在意義について、代表の伊藤さんに伺った。「店がアピールしてことに『安さ』が目立つように思われるでしょうが、店の普通のメニューは、500円、600円と一般的な価格です。客単価は3500円。つまり『かんぱい家』の使い勝手を知ると『安く』飲むことが出来る。ただし店そのものは『安いだけじゃない』。店をまるまる安くしてしまうと、お客様も安くなってしまいます」「『店をまるまる安くしない』とは、店の全部のメニューが冷凍食品ではない、とか。本マグロのメニューがある、とか。刺身の切り身を分厚くする、とか。メニューのそれぞれに、おいしさ、価値が感じられるように工夫しています」そして、伊藤さんは「専門店ではない、総合居酒屋ならではのメリットとその重要性」についてこのように語る。「フードメニューは140を超えています。食材の組み合わせなどでこのようになっていますが、これもしっかりと回転しています。原価率50%のものがあれば、15%のものもあります。最終的には、原価率20%、FLコストは52%から53%あたりになっています」フードメニューは140品目ほど。メニューブックのほかに、壁にも掲出している。食材の組み合わせによって品目をつくり上げて、粗利を確保している「かんぱい家」には39円の「爆裂価格イベント」もあれば、「本マグロ」もある。そこで、客単価3500円で、原価率20%の状況をつくり上げているのは、アイデア設計の賜物であろう。そして、何より「かんぱい家」の従業員は、みな礼儀正しく丁寧に対応している。笑顔も素敵で、仕事に対する愛着と誇りが感じられる。それは、伊藤さんに、会社をこれから育て上げていくビジョンが存在し、従業員全員との共有が図られているからであろう。1年間の「店休」の日にちを店内に掲出。「社員研修合宿」による店休も告知して、教育・研修に力を入れていることを、そこはかとなくアピールしている