第2章 ~1992年から2003年までの10年間チェーンレストランが小商圏化に進み、低価格を追及する――その③(この章は全体5本) 価格を大幅に引き下げ、大量の新規出店を行う『飲食店経営』2000年9月号では「いま、そこにある業界大再編」と題した特集をした。ここでは当時売上高と経常利益が顕著に伸びた12の企業を事例として紹介している。その筆頭にあるのがサイゼリヤだ。 ―—ここからは、この特集記事を抜粋したものだ。サイゼリヤの2000年8月期予想は売上高130.7%、経常利益152.8%。1996年8月期以来5期連続2ケタの増収増益を達成する模様で、しかも年々伸び率が大きくなってきている。売上高の伸びは新規出店にほかならないが、利益面ではついては1997年10月に開業した埼玉・吉川のカミサリーのフル稼働が要因となっている。同カミサリーは敷地面積2900坪で2フロア構成。300店舗に対応。これをベースにフレッシュで高品質な食材の安定供給を実現し、随時価格の引き下げに努めてきた。2000年8月期で注目されたことは、1999年11月25日に実施したメニュー改定で「ミラノ風ドリア」を480円から290円に引き下げたこと。さらに96店舗と過去最高の新規出店を成し遂げた(99年8月末、総店舗数344店)。「ミラノ風ドリア」はサイゼリヤの売上高構成比ナンバーワンのメニュー。この価格をドラスティックに引き下げた理由について、同社専務取締役の堀田康紀氏はこう語っていた 。「一番売れているメニューをお客様にもっと食べやすいメニューにして差し上げよう、と。ではいくらがふさわしいか。380円、いや300円を切ろうということで290円に決定した。実施後は、これまで1店あたり1日60食だった同メニューが150食に増えた」さらにビーフステーキ980円を880円にするなど、高額商品を引き下げて価格レンジを絞った。これによって客単価は8%減少し、800円となった。しかしながら、これらは当中間期で、既存店の業績が91.1%という急激なダウンをもたらした。この数字は価格引き下げを実施する以前のデータが加わっており、実質的には前年同期比88~89%で推移している。この数字をそのままとらえると、既存店が著しく低迷していることになるが、同社ではこの理由として次の3つを指摘していた。サイゼリヤが価格引き下げで小商圏化に進むまず、単品価格引き下げにより、売上高の絶対数が減少した。当初は価格引き下げによって客数も飛躍的に伸びると想定していたが、新規出店の立地が商業施設から路面店にシフトしてきており、ピークタイムのオーバーフローが他店に流れた。次に、新規出店には開店景気があり、それが落ち着くと売上の落差が生じる。大量出店によりこの傾向が顕著になった。3つ目に、価格引き下げと同時に小商圏での展開を進めており(自社店舗の商圏分割)、相対的に1店当たりの売上高が減少してきている。客数については、店舗数に比較して伸びてきており、絶対客数の減少ではないとする。2000年8月期は当初売上高で417億2700万円、経常利益59億7900万円、当期利益32億8700万円を想定していたが、これらの既存店の伸び悩みにより売上高を下方修正した。一方、経常利益、当期利益については共に上方修正。端的に言えば、全体店舗数に対して、新規出店の占める割合が多いために売上予測にぶれが生じたが、店舗段階は標準化が進み、マスメリット、バーチカル・マーチャンダイジングによって原価率が低減している。新規出店は今後加速する意向で、2001年8月期には130店が計画されている。大量出店により、標準化と効率化が推進され、店舗規模65坪120席で店舗投資額6000万円となっている。「関東エリアがまだ足りない。今千葉県に77店あり、1店舗あたり8万人となる。これに対し、埼玉県は29店で1店舗あたり30万人、東京都35店、神奈川県27店で、それぞれ1店舗あたり40万人で、千葉県の水準と照らすとまだまだ出店できる。さらに価格引き下げで1店舗当たり6万人の業態となっている。これを全国に拡大すると2000店舗は可能だ」(堀田氏)正社員の新卒採用も340人実施され、今後継続されていく模様。店長登用も入社3,4年で登用されるようになり、スキルが高くなっていた。店舗段階では社員3人、パートタイマー6人(8時間換算)体制が定着し、月商平均1100万円。人時売上高8000円という高水準が維持されている。――以上、当時の記事から、同社が成長に向かって進んでいる様子をまとめた。外食産業市場規模は1997年をピークに縮小していくが、そのトレンドの中でチェーンレストランのセオリーを守り通している様子が見て取れる。「低価格」路線で客数アップ図る筆者は『飲食店経営』の編集長当時に「今月の視点」というタイトルのコラムを連載していた。ここの内容は当月の取材・編集活動を総括するものであるが、2001年9月号のコラムに「2001年7月26日」というタイトルをつけた。その日は「吉野家」が「並盛280円」を定価にした日であり(西日本地区。東日本地区は8月1日より)、日本マクドナルドがジャスダック市場に上場した日でもあるからだ。日本マクドナルドにとってはその日からちょうど30年前の1971年7月20日に銀座に1号店をオープンしており、記念すべき日である。そして、私の2つの企業に対する格別の思いは、外食産業が追求してきたことを象徴しているのではないかと感じたからだ(ただし、その時点まで、である)。2000年の当時は、チェーン展開をしている外食企業の多くは低価格化に傾斜していた。外食産業の市場動向を見ると1997年をピークにして下がってきている。ほとんどの既存店は客数、売上ともに下がっていた。それを克服するものと考えられた手法が「価格を下げて、たくさんの人に買ってもらう」ということであった。そもそも、外食の低価格化はすかいらーくが1992年から積極的に推進していた「ガスト現象」にさかのぼることができるが、それはやがて客層の悪化や利益が減少したことによって路線を修正せざるを得なくなった。そのような反省がありながら、1999年以降から再び、多くのチェーン化レストランが低価格を打ち出すようになっていった。まず、「マクドナルド」が2000年2月14日から平日半額セール「ウイークデー・スマイル」がスタート。通常130円のハンバーガーが65円、160円のチーズバーガー80円となるものだ。これによってそれまで「マクドナルド」にはほとんど見ることがなかった中高年男性客がランチタイムに見かけられるようになった。この平日半額セールについては事前にCM等の告知を行っていなかったが、ハンバーガーの販売個数はいきなり3倍となり、この年のゴールデンウイーク前後には8倍にも達した。前年同日の販売個数が25万食であるから、1日で200万食を売ったことになる。マクドナルドでは、これに向けて1999年1月からキャンペーンプログラムを緻密に展開してきた。まず、ブレンドコーヒー半額、コーンポタージュ半額(各90円)からスタート。ハンバーガー、サイドメニューを含めて低価格のキャンペーンをジャブを入れるような感じで行っている。『飲食店経営』の記事によると、1999年1月より2000年2月までの間に27回行われている。 ――次回、1月9日に続く。