『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。創業以来70年間、変わらぬ人気を保ちフランチャイズ加盟店募集を始めた「もつ焼き ばん」繁盛の秘訣とは(この回のみ)居酒屋業態には、その時代のトレンドが存在する。私の記憶で述べると、1970年代は「養老乃瀧」での脱サラ・独立。80年代は「つぼ八」「村さ来」に象徴される「大衆居酒屋ブーム」。90年代に入って、つぼ八の加盟店から成長した「白木屋」「和民」。2000年に入ると、消費者はチェーンの居酒屋ではなく、酒や料理の品揃えにこだわったお店を尊重するようになった。そして、現在に至る、という流れである。 しかしながら、このようなトレンドとは別の居酒屋業態がある。それは「もつ焼き」。同じ串焼きでも「焼鳥」とは一線を画して、豚の内臓を焼いて濃いめのタレで食べるこの居酒屋には、いつの時代も根強いファンが存在する。居酒屋業態のトレンドが変化しても、「もつ焼き」人気は不動である。 今回は、この「もつ焼き」の中から「もつ焼き ばん」(以下、ばん)の動向を紹介しよう。 創業以来70年間続く「もつ焼き」を維持する「ばん」は1958年に小杉正氏が東京・中目黒で立ち上げたお店である。このお店は再開発によって2004年12月に閉店した。その後、小杉氏の娘婿である松本勝氏(60歳)が2006年に後を引き継ぎ、「ばん」を五反田にのれん分けで出店した。 松本氏は、当時メガフランチャイジーを営んでいて、飲食店の複数ブランドを擁していた。この五反田のお店はこれらの店舗の一つとして営業していた。同店は15坪で、月商250万円でスタートして、2年程は赤字続き続きであったという(2008年に、複数ブランドは解消)。代表の松本氏は、かつてメガフランチャイジーを営んでいた経験から、「あるべきフランチャイズの仕組み」を大切にしている2010年9月に㈱ばんを設立し、「ばん」の営業に傾注するようになった。その後、創業の町、中目黒に物件が出たことから2014年10月に中目黒本店をオープン。それ以来、三軒茶屋店(18年4月)、下北沢店(20年9月)、高田馬場店(21年7月)、恵比寿店(23年1月)、沖縄那覇店(24年2月)、上海店(25年9月)と出店した。㈱ばんを設立してから、着実に商売を重ねて、売上は伸びていった。月商250万円だった五反田のお店は月商1100万円を超えるようになった。そこで、「ばんには伸びしろがある、と確信した」という。中目黒本店は14坪弱で、ここも1100万円を超えている。いまも前年同月比で106~108%あたりで推移しているという。客単価は全店ともに2200円弱。原価率は平均38%前後と少し高めだが、お店は1日4.8回転していて、松本氏は「当社は、薄利多売ではなく『薄利多多多倍』で、この売上をつくっているのです」と語る。そして同社では、今年に入って「ばん」のフランチャイズ加盟店を募集するようになった。既存店のほとんどは15坪程度で、月商1000万円を超えるお店も複数存在するグランドメニュー以外は自由度があり個性を発揮松本氏は、「ばんの強さ」について、このように語る。「それは、創業者である義父がつくったメニュー構成を変えていないということ。グランドメニューは150くらいあります。もつ焼きは1本80円(税別)から、130円、150円。お客様は5本盛り600円というのを選ばれることが多いですね」「常連のお客様は、『ばんは変わらないね~』とおっしゃいますが、それが重要なポイント。店ごとに変える部分もあって、それはそれぞれの店舗の店長が考えるメニューです。例えば、中目黒本店では『本日のおすすめ』として、『アジフライ(タルタル)』308円(税込)、『ほっこり焼きなす』418円というのをやっています。ここが店ごとに違うのですよ。そこで、同じ『ばん』であっても、それぞれの店にファンがついています。『オレは三軒茶屋のばんがいいな』という感じです」「ですから、これから加盟店になる方には、グランドメニュー以外は自分が得意とする独自のメニューを出していただきたい。海鮮居酒屋のオーナーさんであれば、得意の『刺身メニュー』をお薦めしてください、と」 このような「ばん」の繁盛を支えているのは、長時間営業である。既存店のほとんどは、休日なしで11時30分から翌4時まで、16.5時間営業。これによって、「ランチ」「昼飲み」「ディナー」「深夜」の営業を、3交代でカバーしている。松本氏はこう語る。「こんなことで、客層は『みんながターゲット』です。まず、週2以上のご来店の超常連様『岩盤保守層』は50~60代の会社員。この常連のお客様が30%を占めています。それに続く『常連予備軍』が30~40代会社員で20%を占めています。この一方で、入れ替わる可能性がある『浮動層』が50%。この内訳は、『ファン層予備軍』である20~30代会社員が20%。このほかは、学生20%、女子グループ10%という感じですね。『岩盤保守層』が『もつ焼き ばん』の雰囲気をつくっています」また、「ばん」はデリバリーも強い。既存店では、デリバリー専門業者にお願いして、デリバリーだけで月商200万~300万円を上げているお店もあるという。お客に人気の「もつ焼き5本盛り」600円。グランドメニューは150品目存在する小規模店を居抜きで展開して収益性を高めるFC募集を行っていく上で、これからどのようなチェーンにしていきたいと考えているのだろうか。「私がメガフランチャイジーとして飲食店のさまざまなブランドを展開していたとき、そこでは、本部が決めた同じ内装、同じメニューという具合に、決まったことしかやってはいけなかった。お客様にとっても、同じ店名であれば『どこも同じ』ということで『安心感』をもたらしていました」「いまの時代は、それが仇となります。どこに行っても同じものが出て来る、ということは、『たぶん品質もそれなり』という受け止め方をされるのですね。面白みがない、という感覚ですね。「メガフランチャイジーの当時、1つのFC店に内装設備で8000万円かけて店舗をつくったこともありました。これは後々ものすごい負担になりましたね。いまの時代は15坪の居酒屋でもスケルトンだと内装設備で2000万円以上かかります。そこで『ばん』では、居抜き出店をお薦めしています。うまくいけば、内装にかかるコストが300万円程度で済む場合もあります。これだと、スケルトンで出すのと比べて複数店舗出すことが出来ます」「『ばん』が、毎年売上を伸ばすことが出来ている理由は、『もつ焼きだから』ということだと思います。『ばん』のお客様は、最初から『ばんに行こう』ということになっているのでは。古くから続いてことの『安心感』でしょうね」ちなみに、同社では戸越銀座(品川区)にセントラルキッチン(CK)を擁していて、ここで串打ちを行って各店舗に配送をしている。そこで、加盟店は串打ちすることなくサービスに徹することが出来る。松本氏は「まず、ここから食材を配送可能な東京圏に30店舗を展開したい」と加盟店展開のビジョンを語る。「オーナー様には『最初は15坪、月商600万円を目標にしましょう。そして常連さんをたくさんつくって、5年で1000万円のお店にしましょう』とお話しています。この根拠は、2023年1月にオープンした恵比寿店が初月に800万円を売ったのですね。そして半年で1000万円を超えました。『ばん』のブランドが良く知られているのだと思います」「もつ焼き」の存在感には、華やかなイメージはないが、お客にとっては「安心感」を抱く居酒屋なのである。「ばん」のフランチャイズ展開は、これに支えられて、ファンとの絆を強くしていくことだろう。同店では「レモンサワーを考案したお店」をアピールして、昔ながらの提供方法を行なっている