『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。銚子丸の「ギネス世界記録」に見た、従業員と顧客との「強烈な求心力」のつくり方(この回のみ)すしチェーンの飲食業、株式会社銚子丸(本社/千葉市美浜区、代表/石井憲)では、さる11月1日「ギネス世界記録」に挑戦した。テーマは「鮪解体ショーを同時におこなった最多数(複数会場)~数値目標60店舗」ということ。これに挑戦した後、ギネス世界記録公式認定員によって審査が行われ、その結果、銚子丸のこの挑戦は、見事「ギネス世界記録」に認定された。筆者は、この日、このメイン会場である「すし銚子丸」光が丘店に居て、これらの一部始終を取材した。このとき感じたことは、「強烈な求心力(引き付ける力)のつくり方」ということ。それは、従業員の求心力であり、お客の求心力である。銚子丸という会社は、これらの結びつきを強くするための仕組みづくりに長けている。店内の空気に感じた「顧客はお店の強烈なファン」銚子丸は1977年に創業。現在の主力業態であるグルメ回転ずし「すし銚子丸」は1998年10月千葉県市川市内にオープンし、以来一都三県を中心に6業態92店舗を展開している。今回「ギネス世界記録」に挑戦した店舗は、このうちの71店舗である。ちなみに「ギネス世界記録」とは、「世界一」の記録を認定・公開する組織、およびその記録集の名称のこと。さまざまな分野で達成された記録を公式ウェブサイトで公開、および書籍として出版している。「ギネスビール」を製造するギネス社(イギリス)が、1955年に初めて書籍を発行した、現在、「ギネス世界記録」のデータベースに登録されている記録の数は、およそ6万5000件にのぼっている。今回の挑戦上のルールは、①マグロの解体ショーを行った会場の数で表される。②解体ショーは、すべて同じ時刻、同じ形式で行われる。③解体ショーは専門的な基準に基づいて行われ、規準に満たないと判断された場合は、記録として認められない。――ということ。そこで、挑戦する71店舗が11時30分同時にマグロに包丁を入れる。解体は、背と腹の部分に進んで、四つ割りにする。この工程を、11時38分まで終える。これらの証人として、銚子丸の顧客から各店舗3人が担当し(計213人)、用意されたマニュアル基づいて、審査の項目にチェックした。ここで、解体の手順が指定された基準と異なっている、規定の時間を超えた、といったお店はNGとなる。この日は、一般のお客も通常通りに入店していた。満席であるから、席に座れない人は、受付番号を手にして、ウエーティングの椅子に座っていて、この「ギネス世界記録」への挑戦の一部始終を見ている。11時25分より「お練り」と言って、この日解体されるマグロ(長崎産本マグロ、約40kg)が店内をゆっくりと巡回。店内の目に付くところに、カウントダウンの時刻を示すボードが置かれて、小刻みに時間を表示している。司会者が、カウントダウンを始めて、会場の気分は一気に高揚していった。この様子を見ていて、筆者は「銚子丸の顧客は、同社の熱烈なファン」ということを感じた。マグロの解体ショーを行う前に、店内で「マグロのお練り」を行った。お客が一斉に注目マグロの解体ショーは、現場にとって「燃える存在」この「ギネス世界記録」への挑戦のアイデアが生まれたのは、同社の現場と経営陣の想いが伴ったものであった。現同社代表の石井氏がこう語る。「当社の店舗では、20年ほど前から『マグロの解体ショー』は行っていました。しかし、コロナ禍となって、その開催を止めていた。すると、現場から『燃えるものが無い』と声が上がるようになった。マグロの解体ショーは、現場の士気を高めてお客様に喜んでいただく存在であるということを認識するようになりました」「また、私の前任の代表が、会議でふと『わが社で、ギネスに挑戦できるものはないかね』とつぶやきました。すると、幹部社員が『わが社だったら、全店でマグロの解体ショーを同時に行うことは、容易にできますよ』という。わが社の社員は約450人で、全員が調理の技術者です。このようなわが社の人材力、技術力によって、ギネス世界記録に挑戦しよう、とまとまりました」こうして、今年の2月にプロジェクトが立ち上がり、認定団体のギネスワールドレコーズジャパンとの交渉を進め、6月より「ギネス世界記録」に向けたトレーニングに取り掛かった。挑戦する71店舗には、銚子丸の調理人として5年以上の実績を持つ人材が3人ずつ配備された。この日使用したマグロは、長﨑産の本マグロで約40㎏のもの銚子丸の店舗のコンセプトは「劇場」である。そこで各店舗には「店長」「料理長」「座長」「女将」という役職を置いて、それぞれのポジションからお店の活気をつくっている。お店は「舞台」、従業員は「役者」、お客は「観客」という役回りである。この日、「解体ショー」が始まる前に、店内の従業員は「座長」「女将」の掛け声によって威勢よく声をそろえて発声して、気分を盛り上げていた。入店したお客も、その様子から気分が高揚していったようだ。筆者は、この従業員の連帯感と、高揚した空気に浸っている顧客との結び付きについて考えた。顧客は、この雰囲気を「いつもの『劇場』にやってきたが、今日の高揚感はいつもより高いぞ」と思っているのではないか。店内は「劇場コンセプト」によって活気が満ちているお客の3分の1以上をアプリ会員が占めるこの日の「ギネス世界記録」を見守る「証人」は各店舗に3人と前述した。この募集に際して、同社のアプリ会員に希望者を募ったところ1200人の希望者が集まったという。「銚子丸の『ギネス世界記録』を応援します」というスタンスであろう。この銚子丸のアプリ会員は「縁アプリ」という名称で、2023年11月に初めてリリースされ、それ以降段階的にバージョンアップしていった。現在の機能は、このようになっている。店舗の最新情報やキャンペーン情報が確認できる。「お気に入り店舗」を登録できる。これによって、「待ち時間」などが確認できる。店舗ごとの「限定メニュー」「一押しメニュー」が確認できる。店舗での利用金額等から算出される「縁」の蓄積数によって「縁ランク」がアップ。ランクが上がることで、ポイント付与率が上がっていく。これによってさまざまな特典を受けたり、食事券はノベルティグッズと交換することが出来る。アプリによってテーブル決済が出来る。これらの機能から察するに、「縁アプリ」を所有する顧客にとって、銚子丸の存在感はとても親密なものと言えるであろう。現在(2025年10月末)の「縁アプリ」の会員数は64万人。店舗当たり一日の来客数うち「縁アプリ」の会員は35%を占めるという。お客の3分の1以上である。アプリ会員は、揺るぎないファンである。また、会場の中には大きなモニターが設置されていて、「ギネス世界記録」に挑戦する71店舗すべての店内の様子を映し出している。ここにも同社の「求心力」が感じられた。大きなモニターで、「ギネス世界記録」に挑戦する71店舗の画像が放映された同社専務取締役の堀地元氏はこう語る。「これらは、当社がコロナ禍にあって取り組んできたことが、いま活かされています。店に来ることができなくなったお客様とどのようにつながるか、直接面談することが難しい従業員とどのようにコミュニケーションを取るか、ということが仕組み化されています」コロナ禍の逆境の中で、銚子丸は新しい「挑戦する姿勢」をつくり上げた。