『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。外食の起業家「花光雅丸」の「subLime」から「beagle」へ事業方針を大転換した背景とは(2回連載:第2回)この連載は、「花光雅丸」さんという飲食業の起業家のお話。コロナ前は外食チェーンの買収を繰り返して会社を肥大化させていった。それが、コロナ禍で失敗して、2024年の暮れから、新しい会社を立ち上げて、新しい事業に邁進している。 では、その「新しい事業」とは何か。それはずばり、「一店舗一店舗、良い店をつくっていこう」という方針である。花道さんの新しい会社「beagle」(以下、ビーグル)という社名は、ダーウィンがガラパゴス島に立ち寄ったときの船の名前で、この船によってダーウィンは『進化論』の着想を得た。そこで、「ビーグル号」に乗って飲食業界を進みながら、「飲食業を進化させる」という想いを込めている。同社では現在17店舗を展開している。主軸となっている業態は「ハイエンドレストラン」。これは、厳選された最高級食材、卓越した技術を持つシェフによる料理、洗練された空間と極上のサービスを兼ね備えた飲食店ということ。ビーグルのハイエンドレストランの客単価は総じて2万円あたりとなっている。花光さんは、こう語る。「以前の会社subLime(以下、サブライム)が失敗したのは、『資金』や『知識』の不足という側面がありました。ですから、ビーグルを立ち上げるまでの3年間は財テクの勉強を徹底して行いました。こうして、会社がお客様に『本物』を提供し続ける環境を保ち、会社に何か不測の事態が生じたときに、個人の資産で持ちこたえることが出来ると、組織は強くなるし安心出来るのではないか、と」「ハイエンドを展開していくためには、高度な専門性を持つ人材が必要です。それは、料理のクオリティだけではなくて、コミュニケーション能力とか。財務に超強い、教育に超強いとか。僕は、組織の全体を見ていますが、クリエイターの存在感であって、これら組織の歯車の一つだと考えています。そこで、このような人材が集まってくると、組織の円は、どんどんより大きな円になっていきます」「『ビーグルの目標は?』と問われると、『ミシュランの星を、世界で一番多く持っている会社』ということです。これは僕が目標とする以上に、弊社で働いている人にとって勲章となります。そこでいま、全社員約50人一人一人の面談を3カ月に1回、1人に20分間をかけて行っています。サブライムでは社員が1300人いましたから、やっていませんでした。こんなことに時間を掛けるのであれば、別なことに時間を掛けた方がいいと考えていました」Beagleのハイエンドレストランでは「少量多皿」という提供スタイルを取っているリファラル採用によって良い組織ができていく「ハイエンドレストランの特徴とは、どのようなものか」を尋ねた。「それは、お客様にとっては目的来店ですから。立地を選びません。そして、食い合うことがありません」「また、当社の客単価2万円のハイエンドは、原価がかかっていて、社員のお給料も高い。そこで、このような店を容認してくださるお客様は『港区』の方々なのです。ここで展開するためのポイントは、いろいろな業種を展開すること。弊社の場合は、港区の中で、中華、和食、すし、焼鳥、鉄板焼等々、多様な業種を展開しています」「これらの店をお客様が回遊してくださいます。それをつないでいるのはワインです。お客様は、料理をコースで召し上がるのではなく、摂取カロリーを抑えるためにアラカルトで選ばれます。そしてワインを合わせて、ゆっくりと時間を過ごされています」ビーグルが、1年半の間で17店舗を急ピッチで展開できた要因を尋ねた。まず、「物件が獲得できた背景」について、こう語る。「それは、『港区で飲食店を営む』ということは、お金持ちが多いということで簡単そうに思えるようですが、実は非常に難しい。オーナーが好き勝手に店をつくってしまいがちで、実態は『日々赤字』なのです。弊社では、常に物件の申し込みをしていて、物件が取れたら店を開けるというやり方をしてきました。先ほど申した通り、ここにハイエンドの『立地を選ばない』『食い合わない』という特性が活かされるのですね」次に、「人材の採用がスムーズに行われた背景」について、こう語る。「弊社の採用は、『リファラル』(紹介)を大切にしていて、新規採用のうちの40%を占めています。リファラルの場合、この人材を紹介する人は、変な人を紹介することはしませんね。ですから、人材の質が担保されます」「そして、リファラルで入ってきた社員が、当社で何カ月か継続すると、紹介した人にボーナスを支給します。ここが、弊社がハイエンドを展開している理由の一つです。弊社では社員のお給料が高い。それは、よく分からないところにお金を支払うよりも、弊社の社員にインセンティブとして支給した方がいい、と考えていますから」ちなみに、ビーグルの社員の年収は、活躍している人材の場合、800万から1000万円のレベルになっているという。beagleの拠点となるお店ではワインセラーが充実していて、顧客はワインを楽しみに利用している「一生懸命頑張る人」の、想いを尊重する料理人のモチベーションについて、どのように取り組んでいるのかを尋ねた。「例えば、弊社の京都の料理長は28歳です。その彼が、『ミシュラン』のセレクテッド(調査員が『おすすめ』と認めたレストラン)を取りました。彼が着任したばかりの当時、僕は彼に『シンプルな器で、シンプルな料理を出してください』とお願いしました。器と料理の内容は僕が決めていました。その彼は守破離(修業の課程)がいい。着実に成長していきました。そして僕は『自分の好きな料理を出してみなさい』と言いました。そこでセレクテッドとなったわけです」料理人の「働き方」について、一例を紹介してくれた。「お客様のうちの半数をインバウンドが占めている弊社のすし店のことを紹介します。弊社のハイエンドの店は、インバウンドに効かないと思っているのですが、この店はインバウンドが多い。その理由は、同店の料理長が午前中から午後いちにかけて、インバウンド向けに『すし握り体験』を行っているのです。朝の7時、10時、13時からという具合に。それがインバウンドに広がった」「このようなことは、僕が彼に『やってください』とお願いをしたわけではなく、彼が自分で希望して行っていることです。こうして、彼の給料は上がっていきます。ですから、『一生懸命頑張りたい』という料理人の志は、その人に委ねてよいのではないでしょうか」東京以外の京都に拠点をつくりブランディングを添加している。写真は、八坂神社近く「hakubi」の庭そして、いまの事業に対する想いをこのように語ってくれた。「かつての飲食業では、劣悪な労働環境や従業員からの搾取が多々存在していました。これによって、ここで働く人は、志半ばで辞めていったという現実がありました。これまでの飲食業で問題だったのは『人材の流出』です。僕は、このようなことを食い止めたい」「働いている人にとって、『自分の成長が感じられる場所』にする。このようなことを継続していて、例えば、地域社会から『beagleさん、ここに出店していただけませんか』と、声を掛けられる存在でありたい」このように花光さんは、新しい事業に託したハッピーな飲食業を育んでいく想いを語ってくれた。