『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。茨城・古河市ローカル企業「丘里」が、コロナ禍にあって従業員・地域社会に向けて行ったこと第2回(この連載は計3回)今回は8月28日に続き、茨城県古河市内で和食店を4店舗展開している株式会社丘里(代表/中村康彦)のお話である。同社はコロナの前に、和食店8店舗、唐揚げ店2店舗を展開していて年商が9億円を超えていた。それがコロナ禍となり、和食店4店舗に縮小した。一見して業容は半分以下となったが、同社の体質は筋肉質のものとなり、さまざまな売り方を身に付けるようになった。今回は、売り方から一歩掘り下げて、「コミュニケーションづくり」に取り組んだお話である。従業員との関係性、地域社会やお客との関係について、どのようなことを行い、どのようなプラスの現象をもたらしたかについて論述していく。 店舗数を縮小して、コミュニケーションを活発化コロナ禍という大きな逆風の中で、丘里は既存のリアル店舗を閉めていきながら、それぞれのお店で育っていた「人材」と「売り方」を、同社の旗艦店である「旬 おかさと」に集めていった。これによって同店は多様な営業力を持ったお店となり、売上を1.3倍に増やすことが出来た。そして社内的には、代表の中村氏が陣頭に立ち、社内のコミュニケーションを密接に行なうようにした。中村氏は元々料理人であるから、自分が現場に入ってお店の立て直しをしようと考えた。中村氏がシフトに入るのは20年ぶりのことであったという。コロナになってからも、水道光熱費や仕入れ値が徐々に高くなっていった。そこで、お店の数を縮小していっても利益を出していかなければならない。同社にはオリジナル商品を組み合わせた「花かご御膳」2970円などをはじめ名物のメニューが存在し、食材のロスを出さない仕組みをつくっている。そこで、お客にこのメニューの説明をしっかりと行うことで、このコースがよく売れるようになり、コストコントロールもうまくいって原価率を2.6%下げることが出来た。また、季節の変わり目に食材が余るという現象があるという。例えば、春から夏に移るときに、春の食材が余るとか。そこで、使い切っていない食材を、お薦め品として商品化するようにした。このようなことを積み重ねていくことで、冷凍庫の中は、それぞれの数量を誰が見ても、すぐに分かる状態になった。同社では、調理の仕組みについてすべてマニュアル化している。そこで、再度見直しを図るために、料理人を集めて料理教室を開催した。お店ごとに「前の料理長から教えてもらった」ということで、知らず知らずのうちに自己流になってはいないか、と。そこで、中村氏が自ら「丘里の味の基準」を示して、従業員に把握してもらうようにした。飲食店がたくさんあった当時は、従業員の時間の調整が困難で、このようなことはできなかったという。店数が少なくなったからこそ出来るようになったことだ。そして、中村氏は同席した従業員とともに賄いを食べた。お店はきつい状況であったが、「私たちはいま、自分たちの夢の実現とか、自分たちの生活をよくするために、店を営業しているのだ」ということを、徹底して言い続けたという。離れていった従業員とLINEでつながり、シフト応援を依頼丘里が店舗数を縮小していくことによって、従業員の中には丘里から離れていく人がいた。しかしながら、同社から抜けていった人たちは、同社のことが嫌いになったから、ということではない。シフトに就くことが出来ないということに過ぎない。そこで、中村氏はこのような人々とLINEでつながるようにした。「あと3年たつと、絶対に元に戻るから」と伝えて、「丘里ヘルプスタッフLINE」という40人くらいの人々に登録してもらい、中村氏とそれぞれがつながるようにした。コロナが落ち着いて5類になったころから(2023年5月)、宴会がどんどん入るようになった。そこで、このLINEに「〇月〇日に宴会が入りました。どなたか、配膳や下げ膳を手伝っていただけませんか」と発信する。すると「私、やります」という人が出てくる。「丘里ヘルプスタッフLINE」という40人くらいがLINEでつながり、急なシフトインをお願いしているこの仕組みのメリットは、「作業の内容を教える必要がない」ということ。このLINEに登録している人々は、丘里のお店の中に、どのようなものがどこに置いてあるか、ということをみな把握している。そこで、作業の内容を一から教える必要がまったくない。さらに、これらの人々の時給を上げた。そして、時給は当日払いにした。これもこの仕組みに功を奏したようだ。そして、結果的に人件費は下がっていった。中村氏はこう語る。「田舎で商売をするというのは、店の従業員が辞めたとしても、みなさんは店のお客様なのです。親子で当社の従業員をしている例もあれば、旦那さんが隣の工業団地に勤めていて、当社で宴会をご利用されていたり。このような関係性を大切にしないと」「当社の場合は、求人費を掛けたことがありません。採用は、すべて既存の従業員からの紹介です。このように、『出来る人たち』が当社の仕事をしてくださっています」これらの発言から、「丘里というコミュニティが出来上がっている」という印象を受ける。 「コロナのときに、お店に来ることができなくてゴメンね」とお客との関係性についても、新しい試みを行った。まず、お店に定休日を設けた。「旬 おかさと」の場合、定休日を設けていないが、平日の15時から17時の間を休むようにした。これが売上に影響することはない。定休日を設けたお店では、お客様はそのことを把握して、営業しているときに来店するようになった。そこで、売上が落ちたというお店はない。これは、お客が「丘里で食事をしたい」という想いを、潜在的に強く抱いているからに他ならない。また、丘里では「お食事券」の販売を始めた。これは1万円で「ドリンク無料券」が20枚付いている。これを年間に1000セット販売して、1000万円の売上をつくっている。販売期間を「1月~3月:500セット」、「6月~7月:200セット」、「10月~12月:300セット」と、それぞれの需要期に合わせて販売している。「お食事券」1万円のセットを1000部販売して、1000万円の売上をつくっているそこで、コロナが明けてから一切の割引を止めた。以前は「今日は〇〇の日、20%引き」とか、「誕生日DM」「季節のDM」などといった割引サービスを行っていた。そこで、これらを止めてしまうと、売上が下がるのではないかと心配していたが、そんなことはまったくなかったという。いま、丘里のお店にはお客がどんどん戻ってきているという。中村氏はこう語る。「店にいらっしゃるお客様は、みなさん『コロナのときに、お店に来ることができなくてごめんね』とおっしゃってくださいます。当社はこの町で商売を始めて54年目になるのですが、このような関係性を大切にしていきます」そこで、同社では地域貢献につながる活動を熱心に行い、地元の人々との結び付きを一層強くしている。(次回、9月11日に続く)お店から地元の顧客に発信を熱心に行うことによって「信頼」を温めている