『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。年末に思う いま「Z世代に人気の居酒屋」は40年以上前の「大衆居酒屋ブーム」と何が違うのか(この回のみ)「Z世代」というカテゴリーがある。この言葉を検索すると、「1990年代後半から、2010年代前半に生まれた人たちのこと」と出て来る。この世代は、物心がついたころからインターネットやスマートフォンが身近にあった「デジタルネイティブ」であり、SNSを通じて情報収集やコミュニケーションを行うことが当たり前。また、コスパよりもタイパ(タイムパフォーマンス)を重視し、モノよりもコト(経験)に価値を見出す傾向がある。――とのことだ。お客は20代ばかり、「放課後」「ラウンジ」の雰囲気いま、外食の経営専門誌で、この「Z世代に人気の居酒屋」を論じる記事が増えてきた。筆者は、2024年の年明けから3月ごろまで、この分野の取材を集中して行う機会があった。社名(主要なブランド、代表者の名前、年齢)を挙げると、以下の通り。FS.shake(「とりいちず」遠藤勇太、41歳)、鶏ヤロー(「鶏ヤロー」和田成司、42歳)、おすすめ屋(「おすすめ屋」加藤誠庸〈みのり〉、41歳)、BIRCH(「テルマエ」高橋光基〈てるき〉、31歳)、ジェネストリー(「均タロー」東明遼、31歳)。これらのお店に共通しているのは、次のようなことだ。ドリンク(ビールやサワーなど)190円、フードの串ものが90円という具合に、「低価格」を訴求している路面店よりも空中階が多い(店舗の存在はネットで知ることができる、ということか)大きなターミナルの駅の近くにある(そこで空中階だから、家賃が低い)客単価は2500円――このような具合で、お客は20代ばかりだから、店内は「放課後」のような開放感に満ちている(だから、店内はにぎやかで、うるさいほど)。これに似た現象は、40年以上前にもあった。それは「大衆居酒屋ブーム」である。「養老乃瀧」にはじまり、「庄や」「天狗」「つぼ八」「村さ来」といったチェーン居酒屋が多店舗展開をしていた。これらの客単価も2500円(いまの時代の価値観として3000円あたりか)。フードメニューにバラエティがあって、さまざまな利用動機を満たしてくれた。客層は20代が多かったが、いまの「Z世代に人気の居酒屋」ほど、客層は限定されていなかった。では、「大衆居酒屋ブーム」が消え去った理由はなぜか。それは、これらの主要客層だった顧客の居酒屋の経験値が高くなって、定性的な言い方になるが、多少高くても「おいしいお店」のほうを尊重するようになったからだ(と、筆者は確信している)。筆者は、この10月から11月にかけて、再び「Z世代に人気の居酒屋」を詳しく取材をすることが出来た。そこでこれらは、「『大衆居酒屋ブーム』の居酒屋と何が違うのか」ということを考えた。その中で、最も印象的な体験をしたBIRCH「テルマエ」がこの9月にオープンした「テルマエ池袋駅東口泉」で、11月14日(金)の18時に体験したことを紹介しよう。店舗はエレベーターの無い3階にあり、路面のファサードに低価格を訴求する看板を設けている金曜日の18時、エレベーター無し3階50坪が満席「テルマエ池袋駅東口泉」は、池袋駅東口のロータリーを渡ったところにあった。駅から、徒歩2分といった至近距離である。「池袋駅東口店」ではなく「泉」としているのは、「テルマエ」とは、「酒が湧き出る泉」というストーリーに則っているから、という。お店はビルの3階にあって、エレベーターが無い。路面とファサードの部分に「生中199円(税込209円)、「飲み放題1時間398円(同438円)という表示がなされていた。階段で3階にたどり着き、店の扉を開けると50坪ほどの広めの空間に、お客は見事に20代ばかり、びっしりと。みな楽しそうに会話をしている。大学のラウンジを思い出した。レジの従業員から「お客様は何名様ですか? ご予約は?」と聞かれた。「1人で、予約していない」と答えたら、「ただいま、予約で満席です」と言われた。そこで、すぐに帰らずに、お店の中を見学した。店内は約50坪と広め。ここが全員20代で満席になっていた「テルマエ」の象徴である「お酒が出てくる蛇口」は、お店に入ってすぐの壁面にあった。酒の種類別に13基が壁面に設けられ、それが2面あった。ウイスキー、ウーロン酒、ラムネ酒といった内容で、それぞれ40度、20度、10度といった具合にアルコール度数の目安が表示されている。それをお客が、炭酸水、氷などの割り材で、好みの飲み方を楽しむ。要するに、アルコールのバイキングである。これで「1時間飲み放題」が398円(税込438円)である。ここにお客が代わる代わるやってきて、グラスにお酒を注ぎ、ソーダ水や氷などでドリンクをつくっていた。なんだか、テーマパークを楽しんでいるような感じがした。フードメニューは、「テルマエ串」70円(税込77円)、「小籠包」70円(同77円)、「からあげ」480円(同528円)、「麻婆豆腐」666円(同733円)、「濃厚エビマヨ」490円(同539円)といった内容(一部)。親しみやすいメニューばかりである。 店内の内装は「銭湯」のイメージである。なんとなくほのぼのとして、ゆったりとした気分になる。内装は「銭湯」のイメージにして、ほのぼのとした雰囲気を演出している そして、「テルマエ」の架空の創設者である「テルマエ隊長」のイラストとストーリーが掲げられていた。冒険家で商売人のテルマエ隊長が、「酒の泉が湧いている」という伝説を信じて、幼い頃より世界中を飛び回り、30年に及ぶ戦いの末に、伝説の泉“酒泉”を発掘して、蛇口を取り付けた。――ということである。架空の創設者「テルマエ隊長」のイラストと掲出してストーリーを展開しているお客とLINEでつながり、お客の声を反映するその6日後の11月20日、筆者は「テルマエ」を展開するBIRCH代表の高橋光基さんにインタビューをする機会があり、「テルマエ」のコンセプトを詳しく聞いた。高橋さんが起業したのは、2019年8月、25歳の当時であった。当初「2000円で食べ飲み放題」「宴会コース」の居酒屋を空中階に展開、5店舗の体制になっていた。それがコロナとなり、経営不振に。毎月1000万円がキャッシュアウトする状態になった。「何とか業態を変えなければ」と考えてひらめいたことが「蛇口をひねるとお酒が出てくる」ということ。このアイデアを練り込んで、2021年11月、名古屋・名駅でビル6階にある既存店を「テルマエ」にリニューアル。すると、月商300万円だった売上が、瞬く間に900万円、1000万円となった。 これがきっかけとなって、「お酒が出てくる蛇口」は、空中階でも集客力がある」と考えた。ターゲットは、自分たちと同世代の若者。これらの消費傾向は、「週に2回居酒屋に行って、5000円で収められるとうれしい」という。そこで「客単価2500円」という予算を割り出した。そして、リピーターとして定着してもらうために、「まず、3回来店してほしい」と。そのための仕組みづくりを考えた。それは、「FUNFO」というモバイルオーダーを活用して、店の運営を改善すること。高橋さんはこう語る。「『蛇口からお酒が出て来る』というのは、お客様にとってはテーマパークのように楽しいことであり、タイパです。一方、店側にとっては人件費の削減です。この削減したコストをモバイルオーダーにかけていきました」このモバイルオーダーでは、お客が利用するとLINEでつながる。そこで、これにアンケート機能を付けた。そして、お客様が来店した次の日にアンケートを送り、それに答えてもらう。さらに、QSCや顧客満足に関連する項目を挙げて、お客にスコアを付けてもらう。これによって、本部の幹部はお客のアンケートの結果とスコアを毎日見ていて、常に店舗を改善しているという。かつての「大衆居酒屋ブーム」の当時、「テルマエ」が誕生したとしても「蛇口からお酒が出てくる、客単価2500円の居酒屋」で終わっていたのではないか。冒頭で「Z世代」の特徴を述べたが、いま「Z世代に人気の居酒屋」は、これらの特徴を知り尽くして、繁盛店の設計図を緻密に描いている。お客は蛇口のところにやってきて、自分でお酒をつくる。人件費削減であるが、お客にとっては楽しい仕組み