『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。坪月商147万円! 圧倒的な生産性を築く居酒屋の秘訣KIWAMI(本社/川崎市中原区)店のことをお客に記憶してもらうために「ジャブ」を打ち続ける第3回(この連載は全10回)前回は、KIWAMIの店がお客にとって記憶に残る店になるために行っている「2分間のメニュー説明」の理由と、その具体的な方法について述べた。今回は、この「2分間のメニュー説明」がもたらしている、もう一つの大きな効果と、さらに「お客の記憶に残る」ために行っていることを論述していきたい。 全員がお互いの気持ちを分かり合う第2章で述べた「2分間のメニュー説明」は、どんなに店内が込み合っていても、お客の前で腰を据えて行っている。KIWAMIでは、キッチンもホールも、社員もアルバイトも分け隔てなく、全員がこの「2分間のメニュー説明」を行うことが出来る。飲食店の中には、キッチンとホールの仲が良くないというお店がある。特に、キッチン50人、ホール30人とか、大人数の従業員を抱えるようになると、このような現象が起こりがちとなる。これでは、お客に良いサービスができるわけがない。KIWAMIでは、新しい従業員にこのように伝えている。「わが社で働く人は、キッチンをやります、ホールもやります。こうして、わが社で働く人のすべてが、キッチンの気持ちも、ホールの気持ちも分かります」と。「ホールの人は、キッチンの人に、このようにやってあげたらいいよね」「キッチンの人は、ホールの人に、このようにやってあげたらいいよね」このように従業員の全員が、全部の気持ちを十分に理解しているから、お互いのそれぞれが、どのようにしてくれると「本当に助かるのか」。このようなことを分かり合っている。そのような環境から、気分のいいチームワークが保たれている。第2章の「2分間のメニュー説明」は、従業員同士の意識の共有化にも大きく役立っている。このような職場環境があって、社員には「今日のポジション」という仕組みがある。KIWAMIの社員は、ホールもキッチンもできるため、それぞれの勤務の状況によって、仕事の内容が変わる。「2分間のメニュー説明」はキッチンとホールの信頼関係を深める「潜在的欲求」を満たす「無言のサービス」ここで、「2分間のメニュー説明」に加えて、店内でのお客の記憶に残るサービスのことを紹介したい。まず、「料理」の内容が1品増えるサービス。KIWAMIでは「無言のサービス」と呼んでいる。KIWAMIの3店舗のうち、予約を受け付けるのは「魚もつ」のみ。「魚もつ」で電話予約をすると「極み盛り」の注文について伺が、それを注文すると、お客が来店したときに豪華になって提供される。お客様にとってはサプライズとなる。KIWAMIの3店舗の全店で、串盛りは「3本盛り」を注文すると、「4本」になって提供される。「5本盛り」を注文すると「6本」になる。「珍味の盛り合わせ」というメニューがある。これは、この中から「1種類」「3種類」「5種類」を注文するのだが、注文が「1種類」の場合は「1種類」だけだが、「3種類」の場合は「4種類」にして、「5種類」の場合は「6種類」にして出す。このような、「盛り合わせ」を注文すると、料理を出すときに「1種類増える」というサービスの説明は、絶対にしない。「無言のサービス」は、お客の「潜在的欲求」を満たすことで、このサービスを受けたお客は「幸せ」を感じる。「理由」をつけてサービスを行うこの「無言のサービス」を始めるようになったきっかけについて、代表の阿波さんはがこのようなことを教えてくれた。それは、創業したばかり「もつ屋じゅうに12」を営業していた当時のこと。この店は10坪15席であることから、店の様子のすべてが手に取るように見えていたという。そこでお客に料理をお出しするのに時間が長くかかったりしているときに、「あぁ、まずいな」と感じるそんなとき従業員に、「料理をお出しするときに、漬物をサービスで出してね」とか。「あちらのグループのお客様のテーブルに、料理がなくて、お客様がおしゃべりの夢中になっているので、このメニューをサービスで出してね」とか。こんなことが出来た。これが「魚もつ」の20坪43席になると、自分が店に居て、店の全体のお客の様子を把握することができなくなった。つまり、「もつ屋じゅうに12」のときは「個人戦」でお客様に接していたが、規模が大きくなった「魚もつ」では「団体戦」でお客に対応しなければならなくなった。そこで、「団体戦」でのサービスは、注文をいただいた商品を出するときに、「何かプラスアルファの形でサービスすると、お客様に喜ばれるのでは」と。この仕組みを考ええるようになった。出てきたアイデアは、こんなことであった。「今日、お客様が満席で、お席が狭くなっているので、このメニューはいつもは3種類ですが、今日は佃煮をプラスして、4種類にしてサービスします」とか。「お料理をお出しするのが遅くなってしまったので、1品サービスします」とか。はたまた、「2分間のメニュー説明」を行うようになってから、「私のメニュー説明が長くてすみませんでした。お客様は私の説明を最後まで聞いてくださったので、こちらを1品サービスします」とか。このように「無言のサービス」が度重なって、お客にサービスのジャブを打ち続けることができる。「ジャブ」によってお客様の記憶に残るそして、「魚もつ」のお通しは「ポテトサラダ」が食べ放題。ほかの「きわみ」と「原田商店」は「もつ煮込み」が食べ放題。大抵のお客は「何、それ」と思うのではないか。「魚もつ」では16時オープンから17時30分までが「ハッピーアワー」で、ドリンクの全品が半額になる。「魚もつ」ハッピーアワーのドリンク半額によって夕方の来客数を高めるまた「きわみ」と「原田商店」では、立ち飲み席で注文するドリンクは、いつでも全品が半額となる。このような「立ち席のドリンクすべて半額」といったルールがあることから、立ち席を目指してやって来るお客がいる。常連が立ち席を目指して来店されたとしても、立ち席に着くことができないときもある。そんなときのお客は、「今日はカウンター席でいいや」と言って、自分で座りの席に着くという。このようにKIWAMI店の中には「ジャブ」がたくさん存在し、これらによって「お客をノックアウト」している。お客自身も十分に「ジャブ」を楽しんでいて、それを目指して店にやってくる。では、KIWAMIでは、なぜこのような「ジャブ」をやっているのであろうか。阿波さんは独立する際に、ぐるなびで営業マンをしていて、この当時にこの「ジャブ」の必要性を学んだという。それは、こんなことだ。初めてお店にやって来たお客が100人いたとする。そこで、2回目に来店するお客は100人のうちの10人に過ぎないという。90人が2回目に来店しない、ということだ。では、2回目来店しない理由は何か。それは「おいしくなかった」わけではなく、「接客が良くなかった」わけでもなく、「忘れたから」である。ということは、初めて来店したお客の「記憶に残る」ことが出来れば「勝ち」なのだ、と。そこで、KIWAMIでは、お客がKIWAMIの店を「忘れないように」ジャブを打ち続けているのである。「きわみ」と「原田商店」では、お通しの「もつ煮込み」が460円で食べ放題