2020年に入って巻き起こったコロナ禍は、未曽有の混乱をもたらした。しかしながら、新しい需要も創造し、技術革新をもたらした。ここで紹介するのは「デリバリー」の需要が増えたことで、デリバリーの専門業者が増え、それをユーザー(飲食店)サイドの受注機能を一元管理する機能が開発し、それがAIを活用することによって、「All-in-One AI Platform」の実現を一気に加速させる、というお話である。その内容について、順を追って解説していこう。二つの「注文一元管理サービス」が経営統合外食・中食市場データサービスを行うサカーナ・ジャパンの調べによると、わが国のフードデリバリーの市場規模は、コロナ前の2019年が4183億円であったが、コロナ禍にあって倍以上に増えて、2023年には8622億円となった。しかし、コロナが落ち着いた2024年には7.6%減の7967億円となっている。市場そのものはピーク時と比べて若干減少したが、飲食業界にとっては、イートイン以外の売り方として重要な地位を確立していると言えるだろう。 フードデリバリー市場の増加とともに、フードデリバリーの専門業者も増えた。それに伴って、ユーザーの受注端末の数が増えていった。これらはPOSと連携していないために、デリバリーとして受注した一つ一つを「管理端末に打ち直す」という作業が発生するようになった。 そこで誕生したサービスが「デリバリー注文一元管理サービス」である。これによって、従来の「管理端末に打ち直す」という作業が不要となり、入金管理が正確にかつ楽になる。 このサービスの代表的なものは、株式会社tacoms(タコムス、本社/東京都目黒区、代表/宮本晴太)の「Camel」と、株式会社モバイルオーダーラボ(本社/東京都渋谷区、代表/肥田陽生)の「Ordee」の二つである。 いま、飲食業界で「Camel」を導入しているところは1万店舗、「Ordee」を導入しているところは9000店舗が存在する。この二つがこの6月に経営統合した。これによって、飲食業界向けの「All-in-One AI Platform」の開発を加速していくという。この二つが経営統合して、これらのサービスを導入する店舗は1万9000店舗となる。tacoms調べによると、これらの数は、店舗数上位10社のチェーン企業のうちの6社、さらに上位50社のうち50%超の企業が、このサービスを利用しているという。熱い「飲食業界LOVE」によって構想を広げるこのtacomsとモバイルオーダーラボの創業者二人の、「飲食業界LOVE」の想いはとても熱い。まず、tacomsの宮本氏は、2018年に東京大学に入学してから、学生起業家として活動を始めた。大学のキャンパス内でフードデリバリーを行ったが、軌道にのらず、方向を転換することに。飲食業を見渡すと、海外のスタッフが増えて、注文では、デリバリーの需要が増えるとともに、デリバリー専門業者も増えてきた。そこで、現場のオペレーションを簡略化しようと考えた。「それを解決するのは、一元管理だ」と確信して、「Camel」を開始。これが2020年の夏のことで、コロナのタイミングと重なって、サービスは拡大していった。 モバイルオーダーラボの肥田氏は、リクルートの出身。『ホットペッパー』の営業を担当していた当時、飲食店側に「新規のお客様を呼び込もう」と盛んにアプローチしていた。そのために「リピーター」の存在とその動向を、デジタル化することで把握しようと考えた。2017年に起業をするが、このサービスは一度閉じて、デジタルアンケートのサービスを行った。そして、コロナが到来。これを機に、デリバリーの一元管理と、モバイルオーダーを推進していった。 肥田氏の場合は、フードデリバリーの領域に、モバイルオーダーから入っていったのだが、現場からのメッセージでは「注文管理の方が大変だよ」と。そこでこの部分を整理することによって、飲食業サイドから注目されるようになり、2020年当時にデリバリーの一元管理をリリースした。 二人は、それぞれが抱いている飲食業に対する志が近いことから、二人でビジョンを語り合う機会を重ねて、飲食業界向け「All-in-One AI Platform」を開発することに、意志が一致した。宮本氏はこう語る。「われわれが行なっていることは、飲食業に関連するさまざまな業者様と連携して、既存のさまざまなサービスをつないで、一つにするというサービスです。同じ飲食業界に身を置いて、同じ課題を解決するために、全身全霊で向き合っていきます。これからは、より大きな領域で、課題解決に取り組んでいきます」お客に提案する商品情報をAIが最適化する宮本氏によると、飲食業界向け「All-in-One AI Platform」のアイデアでは、「近年のすさまじいAI技術の進歩を目の当たりしたこと」が、きっかけとなったという。そこで、「一元管理というものを、デリバリーの中だけで取り組んでいくのは、飲食業界に対するインパクトが足りないね」と、肥田氏と共に考えるようになった。では、飲食業界向け「All-in-One AI Platform」が解決するものとは、どのようなことか。宮本氏は、次のように説明する。「これまでわれわれが取り組んできたデリバリーの一元管理とは、イートインだけではなく、店舗の外での客数を増やし、売上をつくっていくとことでしたが、もう一段深掘りしたサービス提供します」「例えば、いろいろな形で、デリバリーサービスの媒体にメニュー情報を記載することが出来る、とか」「地域別、時間帯別の価格を設定する。場合によっては、深夜帯の価格を設定して、より利益を稼ぐ状態をつくる、とか。エリア別、時間帯別、季節限定メニューとかも、媒体に簡単に掲載できる、とか」「お客様に提案する商品の情報を、AIを使って、最適化して、より利益を稼ぐことが出来る。これが、これからの構想の第一歩と考えています」AIの自動提案で高いコンサルフィーが不要に宮本氏は、これまでの一元管理サービスで培ってきたノウハウを、経営全体のデータ分析、支援の領域に広げていきたいと考えている、という。要するに、飲食店に向けた「コンサルティング的なスタンス」だ。「このようなことを、いかにして、AIで自動提案するとか。ここに高いコンサルフィーがかからなくて、しっかりと活用が出来るという世界観です。ユーザーは、『All-in-One AI Platform』をワンクリックするだけで、『明日から、利益を稼ぐことが出来る、最適な価格』を導き出せるように、と考えています」宮本氏、肥田氏が取り組んできたことは、デリバリー、テイクアウトといった、イートイン以外での売上拡大と利益の獲得であったが、「All-in-One AI Platform」は、テーブルサービスの領域も視野に入れている。そこで思い浮かぶ言葉は「パラダイムシフト」である。これは、「その時代に当然とされていた考え方や価値観、物の見方が、劇的に、あるいは根本的に変化すること」ということを意味している。宮本氏、肥田氏が描く「All-in-One AI Platform」は、二人の「飲食業界LOVE」が、AIと結び付いたことで膨らんだ世界観である。宮本氏は「飲食業界が、厳しい競争を経験しながら、磨き込んでいるサービスレベル、商品のクオリティの高さを、いかにサスティナブルに可能に出来るか、構想を深めていく」と語る。「All-in-One AI Platform」は、これからどのようなものを生み出していくのか、大いに注目される。