『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。スマイルリンクルが「神田ドミナント」という方針を変えた「守り」から「攻め」への動きとは――「自分たちは、神田が得意な会社だ」と確信第1回(この連載は計2回)さる8月12日、東京・八重洲の大型複合ビル・戸田ビル2階に「鉄板五十六(いそろく)」というお店がオープンした。鉄板焼きのお店で約22坪、30席。同ビル飲食店フロアの通路側にオープンキッチンと、それを囲む形のカウンター席が見えて、調理のパフォーマンスを楽しむ店づくりに引かれる。入ってみたい」と思わせる。同店を運営するのは、株式会社スマイルリンクル(本社/東京都千代田区、代表/須藤剛氏)で、これまで「神田ドミナント」と「商業施設に出店しない」という方針をかたくなに守っていた。(「商業施設に出店しない」理由は、営業上の自由度が低いから、という)。これまで神田のみ、6店舗を展開していた。しかしながら、この八重洲の大型複合ビルへの出店は、これまで方針を覆す決断である。スマイルリンクルという会社に何が起きたのか。小規模の飲食企業における「守り」と「攻め」について、述べたい。「自分たちは、神田が得意だ」と確信するスマイルリンクルは、森口康志氏(58歳)が1994年に神田にお好み焼き店をオープンして創業。後述するが、同社の店舗に「ゴロー」の名前が多いのは、森口氏が独立前に勤務していた青山商事の創業者「青山五郎」氏に由来している。森口氏は、青山氏のことを商売の神様としてリスペクトしている。森口氏が率いる同社が展開する店舗は繁盛店となっていき、都内の至るところに出店していった。いつしか、出店する一方で閉店するところも出てきて、同社は累計30店舗を出店していた。2019年10月、森口氏に代わり同社の代表に同社プロパーの須藤剛氏が就任した。その翌年コロナ禍となり、須藤氏(42歳)は大きな苦難の中で舵を取るようになった。スマイルリンクル現代表の須藤剛氏。プロパーとして、数々の店舗の立て直しを行ってきた神田は小さな事業所が密集するオフィス街である。通常時のディナー帯はこれらのお客でにぎわうが、リモート勤務で昼間人口は半分以下となった。そこで同社では、展開エリアを他に移すことも検討した。そのような中で2021年4月、JR神田駅南口から徒歩30秒のところに「10坪4階建て」の物件が現れた。須藤氏はこの物件を借りたいと思ったが、その決断に踏み込むことが出来なかった。都内に30店舗を展開してきた同社は、コロナ禍にあって神田のみに4店舗を展開する会社になっていた。「かつて展開エリアが広くなったことで、従業員の“血が薄くなった”という感覚があった。従業員満足度が低下し、結果顧客満足度も低下した。そのような状況にあって、神田エリアの店舗は収益モデルが崩れていなく、そこで神田での営業に集中することになった。結果、当社は神田で商売をするのが得意な会社になった」という結論に至った、という。そして2021年6月、この物件を借りる決断をした。2021年に本社機能とした4階建てビルの1・2階に「ラムゴロー」を出店一つの業種がヒットしても同じお店をつくらないさて、4つのフロアの構成を考えた。まず、1階、2階を店舗とする。業態については、既存の神田のマーケットに合わせると埋没してしまうと考え、「神田にないもので、お客様が神田にやってくる業態」を検討した。そこでひらめいたのは、以前ジンギスカン料理のお店を営業していたこと。「ラムはアンチの人もいますが、好きな人は遠方からでもやってくる」(須藤氏)ということで、スマイルリンクルが得意とする神田の町で、遠方からお客がやってくる「ラム肉酒場」を営むことに決定した。10坪で1、2階の店舗の形態は同社の前例としてJR神田駅前の「酒場ゴロー」があり、通常営業の時に月商1000万円を上回ることもあった。店名を「ゴロー」つながりの「ラムゴロー」とブランディングすることで酒場ゴローと同様に生産性の高い店舗を志向する。ラム肉をメニュー化するためには下処理の作業が多いことが分かった。そこで3階を下処理の施設にすることが決まった。この施設の活用についてはセントラルキッチン(CK)の構想へと広がっていった。最後の4階について。同社ではこれまで神田に12坪程度の事務所を借りていた。そこでこの4階に事務所を移設すると、事務所の家賃が発生しなくなることから4階を事務所にすることにした。こうして、10坪4階建ての物件は、1、2階が『ラム肉酒場 ラムゴロー』、3階がCK、4階が事務所という見事に本社機能が整ったビルとなった。「ラムゴロー」の2階を、羊がのぞいているという趣向神田の6店舗とは、以下のような内容だ(カッコ内は、その業種)。・「Big-Pig」(お好み焼き)・「酒場ゴロー」(肉酒場)・「酒場五郎」(大衆酒場)・「Tchin-Tchin GORO」(和食×フレンチ)・「ラムゴロー」(羊肉料理)・「小籠包マニア」(小籠包)創業のお店は神田にある「Big-Pig」。カープファンのお店として、カープ選手のトークショーなども行われる「女性活躍推進」の空気感にファンが増えるこれらのお店の「業種」を見ての通り、二つとして同じ業種のお店はない。あるお店が繁盛したからといって、同じ業種のお店をつくってはいない。とはいえ、これらのお店には同社の企業理念が浸透していて、業種が異なっていても同社ならではの空気感が共通している。そこに居心地の良さを感じると、同社のお店のファンとなり、神田の2軒目、3軒目は同社のお店をはしごするようになる。コロナ前の2019年6月、JR神田駅高架下にフレンチバルの「チンチンゴロー」をオープンそして、同社では「女性活躍推進」を行っている。同社のお店を訪ねると、女性従業員の表情が輝いていることに気付く。同社の7店舗のうち、3店舗で23歳、24歳の女性店長が運営している。須藤氏によると、「当社では、店長が出来る人材ではなく、店長をやりたいという人材を店長に登用している、ということでこうなった」と語る。これから同社が女性を登用していくためには、業態設計はとても重要なことになるであろう。これまでは、神田の本部ビルの3階に設けたセントラルキッチンを事業化することで、日中、女性従業員が活躍している。そして、これからも女性が活躍する職場や、仕組みが必要であると、同社では考えるようになった。そのような中で、八重洲で新規出店するチャンスがやってきた。同社の場合、この女性活躍推進の方向性を推進する上で、ここでチャレンジしてみようという想いも湧いてきたようだ。いずれにしろ、同社が次へのステップアップを考えていたのは、コロナ禍という逆風の真っただ中である。この間、どのようなことを行っていたのか、第2回の記事で紹介しよう(次回は、12月11日公開)