連載第23回、24回、25回、26回、27回(最終回)は、連載1回、2回、3回と一部重複します第5章 〜2020年から23年まで〜コロナ禍が外食産業にもたらした「生き抜く力」と「新しいステージ」――その③(この章は5本)2020年4月以降の度重なる緊急事態宣言や営業自粛要請によって、外食産業は営業時間の短縮や、酒類販売の自粛など、厳しい事態を迎えることになった。ここでは、コロナ禍にあって外食ではどのような行動をとったかということの顕著な事例を筆者の当時の記事をつないで述べていきたい。なお、代表者名や肩書、店舗数・売上等の数字は当時のままである。 ゴールデンマジック(東京・港区)野菜販売に取り組み「地元密着」の中で新しい顧客層を発掘筆者は2020年4月24日より店頭で野菜の販売を始めた㈱ゴールデンマジック(本社/東京都港区、代表/山本勇太)の「酒場フタマタ」西池袋店を、その二日後に訪ねた。同店の野菜もフードサプライから仕入れたものだ。しかも、「串カツ田中」西池袋店と一軒隔てて隣り合わせである。野菜売場が一挙に2カ所できたことになる。筆者は11時から14時ごろまで2つの店を行ったり来たりしたが、それぞれの野菜売場は13時ごろからにぎわうようになった。買い物に来るお客は近隣の人々、主に中高年や年配の主婦層だった。串カツ田中、酒場フタマタともに客単価が2000円代前半で、客層は地元で働く人ないし地元の人である。これらの店は平時より「地元密着」を標榜していて、この度の野菜販売をきっかけに地元密着の顧客層を広げることができた。俺の魚を食ってみろ‼(東京・新宿区)緊急事態宣言で「カニ・すし食べ放題」に取り組み1日5回転2度目の緊急事態宣言が発令された2021年1月、東京・西新宿にある居酒屋「俺の魚を食ってみろ‼」では「カニ・すし食べ放題」3500円(税別、以下同)を行った。1月10日~2月7日の限定で営業の時間を11時30分から20時までの通し営業として、メニューを上記のもの一本に絞り提供した。「カニ・すし食べ放題」の内容は、最初はコース仕立てで、「カニ味噌グラタン」「カキフライ」「カニ汁」「食べ放題のすし」がすぐに出てきて、その後からズワイガニの肩から脚の部分とすしが食べ放題となっている。この様子をSNSに投稿してそれを従業員に見せると、うに、いくら、牡丹えび、穴子一本にぎりといった高級ネタのすしがプレゼントされる。すしのご飯には赤酢を使用して、本格派であることを訴求。食べ放題の時間は90分制で、スタートしてから60分でラストオーダーとなる。約60席の店内は、連日見事に5回転したという。 コラム「蛇口レモンサワーⓇ 焼肉ホルモン たけ田」「0秒レモンサワーⓇ 仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」~コロナ禍直前に誕生して、コロナ禍にあっても急成長を遂げるテーブルに備え付けられたタワーのレバーを倒すとサワーが出てくる。制限時間の中で、好きなだけサワーを飲むことが出来る。レモン風味がメインとなった割り材で、さまざまなサワーを楽しむことが出来る。メインのメニューは焼肉で1品が400円~600円台、客単価は3000円あたりと親しみやすい。誕生したのは2019年でコロナ禍になる前であったが、この業態がヒットしたのは、まさにコロナ禍の真っただ中であった。生産性向上と空白マーケットを狙うこの業態が初めて現れたのは2019年2月のこと、埼玉県入間市にオープンした「蛇口レモンサワーⓇ 焼肉ホルモン たけ田」(以下、焼肉ホルモン たけ田)である。同店を出店したのは株式会社ミナモト(本社/埼玉県入間市、代表/細田源太)で。同社は地元で事業を展開してきて「入間市のローカルマーケットで地元が盛り上がるような展開したい」と、10年に現在の会社を立ち上げて、西武池袋線の武蔵藤沢駅近くで飲食店をドミナント展開していった。店が誕生したきっかけは、代表の細田氏が「人材不足と生産性向上を解決するために、ホルモン焼きの店を開業しよう」と考えたこと。そこで18年3月ごろから準備を進めていた。そして、オープンしたばかりのイタリアン業態の店長が入院する事態となり、「属人的な事業経営は止めよう」と判断したことが原点となる。当時は、客単価3000円以下の「ネオ大衆酒場」と言われる居酒屋がどんどんと広がっていたことから、この価格帯の焼肉店を開発すると、この業種の空白マーケットだ」と考えた。「そこで、おじさんだけでなく、ファミリーも女性も安心して利用できる雰囲気で、おしゃれ感があり、きちんとしたクレンリネスを備えて、なおかつトレンド的な要素がかみ合うことによって、たくさんのお客様から支持をされて店舗展開が速くできる。そして、おいしいお肉がたくさん食べられて、お酒もたっぷりと楽しむことが出来る業態をつくろう」このような方針を定めて新業態の開発に取り組んだ。この構想のポイントは、生産性向上と空白マーケットの二つ。生産性向上を追求するためにセルフ化を推進する。オーダーも飲み放題もセルフにする。こうして「焼肉ホルモン たけ田」が誕生した。成長エンジンとなるパートナーと組む「焼肉ホルモン たけ田」がオープンした10カ月後の2019年12月、横浜西口に「0秒レモンサワーⓇ 仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」(以下、0秒レモンサワー)がオープンした。同店を出店したのはGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)。同社はそれまで首都圏、東海、関西においてビルの空中階でカジュアルレストランや居酒屋を展開していた。そして、16年あたりから、代表の藤田氏は100店舗100億円の事業規模を目指して成長エンジンとなる業態を捜していた。この構想はM&A戦略なっていくが、そこで巡り合ったのが、仙台の「仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」(以下、ときわ亭)であった。同店は、加藤栄一氏が05年に仙台市内の一番町にオープンし、繁盛店となって宮城県下でチェーン展開を行っていた。藤田氏は、この仙台の「ときわ亭」に足しげく通い、同店の商品力の高さを日増しに確信するようになった。その後、構想を進めるうちに、お互いがウィンウィンを模索するようになり、全く互角のパートナーシップを結ぶことになった。藤田氏は「全国展開をして100店舗100億円を目指すこと」が狙いであり、加藤氏は「ときわ亭のブランドを全国に広げたい」という想いがあった。藤田氏は、これから全国展開を行うためには既存の「ときわ亭」の商品力に加えて店内に仕掛けをつくりたいと考え、各テーブルのレモンサワーのタップを設けることを考えた。そこで「0秒サワー」の商標を登録した。そこでGOSSOで展開する店舗は「0秒サワーⓇ仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」という店名になった。同店の看板商品は、「ときわ亭」がオリジナルで開発した「名物 塩ホルモン」であるが、「0秒レモンサワー」オリジナルの「“肉塊”レモン牛たん」や「レモン牛タンカーペット」などがある。2000年に入り「0秒レモンサワー」は出店ペースを上げて、FC展開を行うようになった。この業態に加盟をして、コロナ禍にありながら飲食企業としての基礎固めを行ったところもある。――次回、4月24日に続く