『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。東京・北千住でドミナント展開する「一歩一歩」が、小売業を事業化して見えてきた「次につながる経営」第2回(この連載は計2回)一歩一歩では、コロナ禍にあって、小売業を事業化することを決断した。現在は、居酒屋でドミナントを形成している東京・北千住に2店舗、東京スカイツリーラインで、北千住より4駅離れた西新井に1店舗、青果物・食品販売店を構えている。今回の記事のテーマは、「居酒屋を本業としてきた企業が、小売業を事業化することでどのような変化が見られたのか」ということ。これを記事化する理由は、同社の場合、結果的に「新しい活路」を切り拓くことができたからである。本連載の後編は、同社にとって小売業を営むことがどのよう効果をもたらしたのか。そして、どのような展望を描くことができたのか、ということについて論述する。そこで、後編の出だしとして、最近、若い居酒屋経営者が、コロナ禍を経験してから、鮮魚の小売業を手掛ける事例が増えていることを話題に挙げて、そのような業容拡大の先輩である同社代表の大谷順一氏に、「このトレンドをどのように見ているか」と尋ねた。東京スカイツリーラインで北千住から4駅離れた西新井にある店舗。周辺は高層マンションが立ち並び、午後になると買い物客が続々と訪れる儲からなくても、お客さんを付けること大谷氏は、このように答えた。「飲食業とは食材ありきの商売ですから、『仕入れを押さえる』ということは、とても重要なことだと思います。しかしながら、飲食業が『魚屋』を始めたところで、この『魚屋』が回らないと、会社全体の利益を圧迫してしまいます」そこで大谷氏は、これからこのような商売をやってみたいという人に、「粗利1割、2割でスタートしたほうがいい」と、アドバイスしてくれた。「これだと儲かりませんが、まず、お客さんをたくさんつけることが重要なのです」と大谷氏は語る。一歩一歩の「八百屋」も、ここからスタートしたという。当初、期末で締めると営業利益がマイナスということもあった。しかしながら、同社の「八百屋」が、周りのスーパーより圧倒的に安いことから、いまでは同社の「八百屋」を目的に買い物に来ているという。前編でも紹介したが、北千住の旧日光街道沿いのある「まるいち青果」は、10坪の規模で1日1300人が来店し、月商1800万円を売り上げている。顧客は圧倒的に低いことを認知していることから、常に複数を買い求めている大谷氏は、このような「八百屋」を手掛けた経験から、「低価格が重要だ」ということを認識するようになった。大谷氏はこう語る。「私は、毎日3時に起きて市場に行って、野菜を買い付けて、店で売場をつくって、お客様の動向を見ています。買い物にいらっしゃる奥様たちは、20円、30円安いことに必死です」「野菜の売り方を検証していて、こんなことがあります。例えば、玉ねぎを3個150円で売る場合と、2個100円で売る場合、同じ量と価格なのに、2個100円の方が売れます。トマト3個を200円で売る場合と、6個380円で売る場合とを比べると、6個で380円の方が売れます。お客様は、このように『お得』であることに眼を付けているのです」野菜以外では、日常生活に欠かせない肉やグロサリーを品揃えしている「安売り」ではなく、「お得」の商品設計では、このような「八百屋」での経験は、居酒屋経営にどのように活かされているのだろうか。この2月にオープンした新店「炉ばたかど」で実践していることを例に挙げて、大谷氏はこう語る。「まず、野菜焼きで、野菜の原価が高くなったものはメニューから外しています。こうして、1品の価格は280円から480円の範囲におさまるようにしています」「ドリンクでは、鹿児島の酒造メーカーさんの焼酎を、こちらの会社の4合瓶に90㏄入れて、そして炭酸を入れて、1瓶1280円で提供しています。この1瓶で、焼酎のソーダ割が4杯取れるということで、とても人気です。原価率も3割を超えていません」これらは、決して「安売り」をしているのではなく、お客に「お得」を感じてもらう、ということだ。このような仕組みを考えて商品化することによって、お店の評判が広がって、リピーターをもたらしていくのではないか。このような発想を抱くようになった一歩一歩では、次の居酒屋経営の構想を描くようになった。「飲食店としては、北千住駅近くの既存店をリニューアルして『焼鳥』を仕掛けたい。焼鳥の店はいま、客単価3000円あたりと8000円円あたりという具合に二極化していますが、ここに5000円あたりの店をつくります」「メニューは焼鳥に加えて、当社の野菜を組み合わせた惣菜をたくさんラインアップします。例えば、パプリカと新生姜とか、フルーツトマトにもずく酢を和えるとか。このような斬新な野菜のメニューを豊富にして、二極の真ん中にある新しい「焼鳥」を表現したい。この売り方は、3000円の焼鳥に親しんでいるお客様にとって新鮮なモノとして受け止められるのではないかと思います」新規出店や、メニューリニューアルのために、野菜メニューの開発に余念がない「お得」で来店してもらうことがドミナントの役割この「お得」の新店構想は、一歩一歩の本領である「北千住ドミナント」にもつながっている。大谷氏はこう語る。「この焼鳥の店では、弁当販売にも挑戦したい。それは380円の『そぼろ弁当』です。いまの時代、なんでもかんでも値上げです。ラーメンをはじめ、ランチは1000円を超えています。このようなことを続けていくと、ディナー帯でお客様は店を利用しなくなるのでは。このようなことは、北千住で商売をしている当社にとって責任があるのでは、と。一歩一歩の店では、380円のお弁当を売っていて、ランチは500円で済ませることが出来る、という存在感は、ディナーのご利用につながっていくことでしょう」「ドミナント展開とは、私の眼が行き届くということですが、これでは『安心感』だけで終わってしまいます。その本来の狙いは『街づくり』です。このような形での『地域貢献』を行うことが、北千住における一歩一歩の存在意義です」一歩一歩では、北千住以外でも居酒屋を経営している。それは、オフィス街の田町。同社が「八百屋」で培った「お得」は、オフィス街でどのように活かしていこうと考えているのだろうか。「田町の店も、その存在感は北千住と同様です。田町の店を見て、ランチは1500円でもいけるのでは、というご意見もいただきますが、こちらでは1100円にして、大層ご利用をいただいています。それは、こちらのオフィスワーカーにとって、この価格に対する需要があるということです。これから、当社がオフィス街で展開していくとして、このような方針で進んでいきます」前述した北千住の新店の構想も、オフィス街での構想も「安売り」ではなく、「お得」である。「低価格」は、その手法の一つであるが、それは「次につながる価格づくり」である。一歩一歩という会社は、コロナ禍にあって「小売業」を事業して、その経験から「次につながる経営」の法則を見出したものと、筆者は認識している。コロナ禍によって休んでいたお店も順次開業するようになり、活気が戻ってきている