『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。奇跡の業態「俺の~」の発祥と継承者が描く新たな成長の道攻めの新体制とプロパーがタッグを組む後編(この連載は計2回)前回は「俺の~」の草創期のことを論述した。それは、創業者の坂本孝氏は、「人を引き付ける力」に卓越していたということだ。「俺の~」のコンセプトである「星付きレストランの料理を価格2分の1」で提供すること。高くなる原価率を吸収するために、お客に立って食べていただき、店を回転させ客数を増やす、ということは、坂本氏が必要とするシェフたちにとって、当初屈辱的なこととして受け止められたようだ。しかしながら坂本氏は、自分が目指そうとしている画期的な飲食店をシェフたちに体験してもらうことで、「こんなお店を、やらせてほしい」と思わせた。そして、集めたベテランの人材たちに「われわれはこれから、新しいことをやるのだ」という空気感をつくり上げた。その詳しい内容は、前編の記事を読んでいただこう。さて、「俺の~」は、2015年10月期以降に様相が大きく転換していく。これについては、『事業再生のリアル』の記事に詳しく書かれている。(更新日:2023/06/08 投稿日:2022/03/26)https://business-recovery-real.com/case/1491かいつまんで述べると、「俺の~」は2016年ごろから不採算店が出るようになり、18年10月期に1億円の最終赤字となった。コロナ禍が追い打ちをかけて20年10月期に12億円の最終赤字となった。その後、ファンドが株式を取得して、ECやデリバリー事業を手掛けるなど新しい試みを行っていた。そして2024年7月に、ネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会社(以下、ネクスト)が「俺の~」の全株式を取得。同社の代表である立石寿雄氏が「俺の~」の代表に着任してから、「俺の~」は新しい動きを見せるようになった。ずばり立石体制となって、「俺の~」は活発に動き出している。左から、俺の㈱スーパーバイザーの橋本健太郎氏、同代表取締役の立石寿雄氏、同「俺の炉ばた 恵比寿」料理長の岡田哲也氏新体制が「三方良し」の企業文化を推進するネクストでは、2023年6月に外食企業のオリーブ株式会社を取得していて、24年7月に取得した「俺の~」と同年11月に合併した。そこで、「俺の~」では旧オリーブの物件を「俺の~」の店舗に転換するなど、活発な動きに拍車をかけるようになった。新規出店も行っている。2025年5月末の段階で、総店舗数は65店となっている。2024年の暮れからの「俺の~」の出店を見ると、まず、11月30日「俺のビストロ渋谷」(東京)がオープン。25年に入り、1月23日「俺の焼肉 心斎橋」(大阪)、2月27日「俺のフレンチGRILL&WINE秋葉原」(東京)、3月15日「俺の焼肉 博多」(福岡)、そして、5月29日に「俺の炉ばた 恵比寿」と「俺のフレンチ・イタリアン 恵比寿」が同時オープンした。「俺のフレンチGRILL&WINE秋葉原」は、ネクストが「俺の~」の前に買収した旧オリーブの店舗をリニューアルしてオープン「俺の~」の出店を活発に進めている立石体制であるが、立石氏は「俺の~」の魅力と展望について、このように語っている。「創業者は偉大なるアイデアマンですね。飲食業の数値は、原価率30%、人件費30%、家賃10%という具合に固定的で当たり前になっていたが、ここに新しいビジネスモデルをつくり上げた」「ただし、ここには継続して儲けるという視点を欠いていたようです。このビジネスモデルが、だんだんと『儲かる』という状態に至らなくなったのは、お客様にとって、潜在的に食事はゆったりと食べたいという想いがあったからではないでしょうか。そこで、多くの人のニーズから離れていったのではないでしょうか」「『俺の~』の場合は、大多数のお客様が感じられる『おいしさ』の水準を十分に超えています。客単価は『俺のフレンチ・イタリアン』で4000円から5000円、『俺の焼肉』だと6000円から7000円、『俺のやきとり』だと3000円あたり。この客単価の範囲で『また、食べに行きたい』と思っていただいています」「私は『三方良し』ということを、企業文化として大切にしていきたい。つまり、お客様も、業者様も、従業員も、喜んでいく関係性を大切にしていくということです」創業者の坂本氏が切り拓いてきた「俺の~」のブランドの知名度は圧倒的なものであり、その安定したクオリティは、多くの人々から改めて支持されるものと考えている。「俺の~」創業当時の名物料理「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」は1280円であったが、「俺のフレンチGRILL&WINE秋葉原」では「牛フィレ肉のロッシーニ」4378円となって提供されている「俺の~」にとって11年ぶりの和食新業態さて、5月29日にオープンした「俺の炉ばた 恵比寿」は、「11年ぶりの和食新業態」と標榜している。「俺の~」の和食業態は、「俺の割烹」をはじめ数々出店してきが、「炉ばた」は初めての業態である。オープンキッチンの中央に、炉を設けて、魚、肉、野菜を焼いて提供する。シンプルな料理であるが、調理する風景はダイナミックで、ライブ感を楽しむことが出来る。さる5月29日にオープンした「俺の炉ばた 恵比寿」の様子。ライブ感が楽しく印象に残る店舗は、恵比寿駅西口方面で飲食店が立ち並ぶ一体にあり、駅から徒歩で2~3分。同店はビルの2階で26坪・42席の規模、1階に「俺のフレンチ・イタリアン」がある。同店は、おすすめメニューとして「炉ばた名物 大海老原始焼き」1078円、「大トロ鰯 原始焼き」1738円、「幻の特大椎茸 天恵菇(てんけいこ)」1078円、「希少黒毛和牛 東京ビーフの炭火焼き」3278 円(150g)、「愛知県産一色うなぎといくらの土鍋ご飯」4378円、「炉ばたで焼き芋 アイス添え」748円を掲げている。想定する客単価は6000円から7000円という。同店が営業するエリアは、お客が目的来店する個性的な飲食店が立ち並んでいる。その中でも、「俺の~」のブランドが発信する安定したクオリティは、「安心して食事を楽しむことが出来る」というイメージをもたらして、お客からすぐに認知がなされるものと思われる。「俺の炉ばた 恵比寿」のメニューの数々。炉端の料理は、シンプルな調理であることが特徴「俺の~」のプロパーが、経営幹部となって牽引する上に、「俺の~」のスーパーバイザー、橋本健太郎氏の画像を掲載した。橋本氏は、「俺の~」のプロパーである。新卒で「ブックオフ」に入社。入社1年目にして「居酒屋をやりたい」と坂本氏に進言して、居酒屋経営を任せてもらったという。その後、坂本氏は「ブックオフ」を退任するが、飲食業を立ち上げたときに、橋本氏は坂本氏から「これから、一緒に頑張ろう」と呼び寄せられたという。この2月末、「俺のフレンチGRILL&WINE秋葉原」の記者発表があって、筆者が伺ったところ、橋本氏は筆者に声を掛けてくださった。「千葉さん、僕のことを覚えていますか。橋本です」と。筆者が坂本氏の『俺のイタリアン、俺のフレンチ』の本づくりに奮闘していた13年前に、筆者は橋本氏に取材をしていた。いまや、素晴らしい風格のある幹部社員となっていた。「俺の~」という業態は、坂本孝氏のゲーム感覚のような絶妙なアイデアで誕生した。「ミシュラン星付きレストランと立ち飲み居酒屋の合体」は、外食を楽しむ人々から「これは面白い」と大いに歓迎されて一大ブームをつくり上げた。しかしながら、「俺の~」は紆余曲折していく。このような中にあっても、「俺の~」創業のプロパーは、レストランビジネスを諦めずに頑張っている。創業者・坂本孝氏のイズムを背景にして、健全でかつ攻めの経営センスを持ったファンドによって、「俺の~」は新しい局面を迎えている。「俺の~」ブランドの新規出店は、これから新宿、浅草と続いていて、現在の新体制によって、親しみやすい「カジュアルレストラン」としてのブランド力は、再び高まっていくことであろう。