『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。青森で「業界No.1レベル」に成長させた33歳社長の展望その③――職場から負の環境を排除する第3回(この連載は計3回)青森市内で客単価5000円から5500円の居酒屋を5店舗展開している「地雷也グループ」の連載第3回(最終回)である。今回は、筆者が、同社代表の小林達哉さんを「優れた経営者」とリスペクトしているポイントを論述する。筆者は2018年9月、初めて小林さんに取材をしてから、Facebookでつながって、小林さんの動向を伺うようになった。2020年に入るとコロナ禍となる。この逆境を乗り越えるために、すしのデリバリーなど果敢に取り組んでいた。自治体からは「営業自粛」が要請される。これに対して、小林さんは、自治体と直接折衝を行った。青森の飲食業界のために奮闘していた。この中で筆者が注目したことは「アパート賃貸業をはじめ」ということ。「事業の多角化に挑んでいるのか」と思った。そして、コロナが落ち着いて、青森市内の目抜き通り「新町通り」に、2024年9月、25年9月とワンツーと店舗を出店した。この内容については、連載第2回(1月15日公開)で詳しくまとめた。そこで、「アパート賃貸業」になぜ取り組むようになったのか、筆者は小林さんに尋ねた。これについての小林さんの回答が、小林さんの経営哲学を顕著に物語るものであった。自身が生み出した経営哲学を語る小林さん(撮影/福田真紀) 従業員の生活を守るための施策「地雷也グループが、アパート賃貸業に取り組んでいるのはなぜか?」それについて、小林さんはこのように語った。「弊社は、アパート経営のほかに株式投資にも取り組んでいます。これは従業員の⽣活を守り、事業を安定して継続していくための重要な柱と考えています」「アパート経営を始めた背景には、コロナ禍による⻑期の⾃粛要請がありました。飲⾷部⾨の 売上が⼤きく落ち込んだ中でも、ここの安定した収益が従業員の給与を確保する支えとなりました。この経験から、飲⾷部⾨と不動産事業を並⾏して運営する体制が、会社としての強さにつながると実感しました。 この⼆本の柱によって、 従業員の⽣活基盤の安定 、会社のキャッシュフローの平準化 、景気変動に左右されにくい経営体制、 といった効果が生まれています」「弊社では飲⾷部⾨の利益はできる限り従業員へ還元しています。そこで、経営者である私は、不動産事業と株式投資による収益を、⾃⾝の役員報酬や出張旅費、社会保険料といった経費に充てています。その結果、飲⾷部⾨の利益だけで運営していた頃と比べて、従業員の賃上げ、賞与、福利厚⽣などへの還元をより厚く実施できるようになりました。さらに、不動産や株式投資から生まれる利益は、事業の将来的な成⻑に向けた⼤切な財源でもあります」 「経営者が独⽴した収⼊源を持ち、⾃⾝の経費を⾃ら賄うことで、従業員にとって『⾃分たちが稼いだ利益で 経営者が生活しているのではないか』という不満や摩擦を生むことなく、安⼼して働ける環境づくりにもつながります。こうした透明性の高い体制は、社内の信頼関係を築くうえでも 重要だと考えています。この体制を基盤としてより良い企業づくりに努めます」この発想は、いわゆる「資本と経営の分離」を一人で行っているという構図ではないだろうか。「資本」と「経営」がまったく別の立場で運営されると意思決定のスピードが落ちたり、経営者と株主側の対立リスクが生じることもあるだろうが、これを一人で賄っていることから、意志決定のスピードが速く、運営のスペシャリストが活躍できる。第18回居酒屋甲子園全国大会で「全国優秀店長」として称された、「炭×肴 じらいや」店長の高山裕也さんが実践した、優秀な活動の数々は、この小林さんの経営哲学があったからこそ生まれたものと、筆者は確信している。「働き方の選択肢」を増やしていく地雷也グループの年商は2025年9月期で6億円となった。来期は、25年9月に移転オープンした「鮨と地酒 地雷也」の売上がのることから、7億円が見込まれるという。 そこで、筆者は小林さんに、このような質問をした。「これからは、飲⾷業を拡⼤していく⽅向ですか? 業容の多様化ですか?」と。小林さんは、こう語ってくれた。「私は、事業をむやみに広げていくつもりはあ りません。 近い将来で⽬標としていることは、まず新町通りであと2店舗の出店が可能だということ。 そして、2026年にはセントラルキッチンの設⽴を予定しています。これによって各店舗の 商品構成をなるべくそろえて、調理・仕込みの効率化を進めていきたい」「さらに、『全国物産展事業』にも取り組みたい。 飲⾷の現場では、毎⽇新しいお客様がいらっしゃる⼀⽅で、『慣れ』によって業務が単なる作業になってしまう⽅もいます。そこで、この全国物産展事業は、このような従業員の働き⽅を少し変える場となり、新しい経験値を得られるきっかけにもなります」そして、地雷也グループにとって増える傾向にある「⼥性従業員」の働き⽅の対策をどのように考えているのか、尋ねてみた。「例えば、ベーカリーとか⽇中の事業を⼿掛ける考えはあるのでしょうか?」と。小林さんは、こう語った。 「これは⻘森という⼟地柄もあると思いますが、考えたことはまったくありません。日中の飲食業を考えると、フードメニューに特化して、単価も低くなります。そこで、現在の弊社のノウハウでは収益化することが難しいと思っています」「ただ『⼥性』に限ったことではなく、従業員が⾼齢化していくことに対しての働き⽅を考える必要はあるでしょう。 そこで、『働く環境の選択肢』 を増やしていこうと。⼥性だけでなく、これから年齢を重ねていく従業員にとっても、忙しい現場だけではなく。⽐較的落ち着いた職場で勤務するという選択肢も整えていきたい。弊社が、いまの段階で出来ることに⼀⽣懸命に取り組んで、『1年先』を確実なものにしていきたいですね」「炭×肴 じらいや」では原始焼きの様子をショーアップしている(地雷也グループ提供)懸念材料は「地域ナンバーワン」が解決する地方都市にとって、いま率直にいって「人口減少」という懸念材料があるのは事実である。青森市も同様、2020年の国勢調査で青森市の人口は27万5192人であったが、25年11月1日現在では25万6133人(推計人口)という。青森市の人口が漸減傾向にあると言えるではないだろうか。これに対して、小林さんはどのように考えているのだろうか。小林さんはこのように語った。「私は、その減っていく⼈⼝が、⾃分のビジネスの対象であるのか、ということが重要だと考えています。 このような懸念材料は、マーケットを⽀配することで解消できるのではないか、と。それは、圧倒的な地域⼀番店になること。当社の場合は、10年前と比べて『売上は伸びている』『従業員は増えている』という状態です。そのポイントは、当社がインバウンド2割、県外のお客様5割、地元のお客様3割という 顧客構成をつくってきたことだと思います」小林さんが語る、このような地雷也グループの顧客構成をつくり上げたのは、圧倒的にクオリティの高いフードを客単価5000円から5500円で提供するというビジネスモデルである。これから「時代のうねり」というものが激しくなっていくことであろう。地雷也グループは、これからどのように戦って成長していくのか、大いに注目される。従業員は若くはつらつとしていて、店内に良い循環が形成されている