いま、おもに地方都市で「VANSAN(バンサン)」というカジュアルイタリアンが勢いを増して展開している。同店を展開する株式会社VANSAN(本社/東京都港区、代表/相原希)は2014年10月に創業、「Italian Kitchen VANSAN」ブランドに定めてから全国に91店舗(うち直営16店舗/2024年11月末現在)となっている。大きく飛躍したきっかけは、2019年まで直営店主力で出店し、これをFCによる成長戦略にシフトチェンジしたこと。これがコロナ禍にあって繁盛業態を求めていた地方都市の経営者から大いに注目されて、2020年から23年までの4年間で58店舗を増店した。この業態の仕組みと展望について代表である相原氏の解説を元に紹介していこう。VANSAN代表取締役社長の相原希(のぞむ)氏総合居酒屋のノウハウでイタリアンを表現相原氏は1980年10月生まれ、神奈川県出身。24歳で当時株式を公開したばかりの株式会社レンズインターナショナルに入社。当時業態が立ち上がったばかりの「土間土間」に配属された。同業態は大箱の総合居酒屋で、都心の一等地に展開することをコンセプトとしていた。そして、29歳で「土間土間」の事業部長に就任。その後、独立起業して2014年9月株式会社BRAVASを設立。同年10月に都心型のカジュアルイタリアン「BIODYNAMIE(ビオディナミ)」新宿店をオープン。2015年5月、同社の3号店として「ビオディナミ」の郊外版として「バンサン」鷺沼店(神奈川)をオープンした。ここで、郊外・住宅地での手応えを掴み、この路線を推進していくようになる。2019年6月VANSANに社名を変更した。「ビオディナミ」が誕生したきっかけは、相原氏が独立を図っていた2010年の当時、スパニッシュイタリアンをうたう大型のレストランに勢いがあったこと。またワインを提供する小型のバルが人気で、トレンドとなっていたことが挙げられる。これを見ていた相原氏は、自身が得意とする総合居酒屋のノウハウでカジュアルなイタリアンを展開してみようと考えた。ターゲットを「35歳の女性」に定めて、このターゲットが好みそうなメニューや表現方法を組み立てていった。当時は総合居酒屋で客離れが起きているということから、居酒屋ではなくイタリアン風にまとめた。こうして『ビオディナミ』の1号店は2014年10月、新宿にオープンした。ただし、相原氏は「土間土間」を束ねていた経験値から、都心の一等地で営業をやり続けるのは難しいと感じていた。それは、このような立地には斬新な店や、新しい経営者が次々と登場してくるからだ。まさにレッドオーシャンである。「土間土間」では、都心の一等地の一方で、新所沢(埼玉)、東久留米(東京)といった郊外の駅前にも出店していた。このような乗降客数が少ない駅の前は、都心の一等地と比べてトップラインを上げることは難しいが、家賃が低いことからそれなりにROIが成り立つということを相原氏は把握していた。そこで、いつかはこのような郊外の住宅街やロードサイドで成り立つ業態をつくってみたいと考えていた。ターゲットの拠点が住宅地にシフトする2015年5月にオープンした「バンサン」鷺沼店は東急田園都市線の鷺沼駅近くにあり、周辺は高級住宅街。ここでの同店の存在感はとても新鮮で大層繁盛した。都心の一等地とは異なるブルーオーシャンを感じた。「バンサン」というブランドは「ビオディナミ」の郊外版という位置づけであったが、ここで成功すると、全国の郊外の住宅地に出店できると考えた。実際にこの店が、その後の「バンサン」のモデルとなっていった。2016年に入り、店舗展開は都心型の「ビオディナミ」から、郊外型の「バンサン」にシフトしていく。それは、自身の家族の在り方を見ていて気付いたことだという。「ビオディナミ」の展開を始めた当時、相原氏は結婚したばかりで、夫婦としては都心で専門的な食事を楽しみたい。そこで総合居酒屋をベースにしたイタリアンが生れた。そして、子どもが出来て子育てがはじまると、自分たちの拠点が都心から住宅地に移っていった。とは言え、住宅地の中にある既存のチェーン店の外食ではどこかもの足りない、都心の専門的な空間で食事をしてみたいという欲求があった。小さい子供を連れてファミリーで外食を楽しみたい。そんなことから、「バンサン」では「家族で気軽に行ける本格イタリアン」というコンセプトを整えていった。キッズルームもつくった。メインのターゲットは、当初から変わらず「35歳の女性」としていたが、郊外住宅街にあってこの客層が中心となったファミリーやママ会を獲得していった。このエリアには、単品価格が800円に寄ったファストフード的なレストランが基盤をつくっているが。相原氏はこの価格で既存のチェーン店と戦うことができないと思い、店の空間で居心地の良さをアピールしようと考えた。メニューには原価率30%をちゃんとかけて、「おいしい食事と素敵な空間」で、単品価格1500円でしっかりと粗利を取っていく、という方針を固めた。「バンサン」の現在の立地は、駅とつながっている「駅前モデル」、車で行く必要がある「ロードサイドモデル」、そして「商業施設モデル」の3パターン。店舗規模は35坪から50坪で60席から70席あたり。この規模でオープンキッチンにしていることで、店の中に「活況感」を演出している。現在主力の地方都市では、「駅前モデル」で坪家賃が1万円前後、「ロードサイドモデル」の場合はもっと下がる。これで月商は800万円あたり。原価率が30%、ロイヤリティは5%、家賃比率が6%となっていて、これによって十分に粗利が出る仕組みになっている。店内は都会にあるカジュアルイタリアンの雰囲気を彷彿とさせる「おいしい食事と素敵な空間」によって人員に困らない地方都市での出店が増えたのはコロナがきっかけであった。コロナ禍を経験しているこれらの経営者から問い合わせががぜん増えたという。それは、コロナ前に「バンサン」の「駅前モデル」がよく繁盛していて投資回収が3年あたりというのが知られていたようだ。同社も2019年あたりの段階で、直営店出店からFCによる成長戦略に切り替えていて、それがコロナになって地方都市の経営者の狙いと合致した。「バンサン」の集客のポイントは「食事」であり、これが「アルコールがだめ」といった環境の中で大いに注目されたようだ。2020年に9店舗、21年21店舗、22年15店舗、23年13店舗と、それぞれ増店した。地方都市の経営者にとって「バンサン」を出店したいという要望の多くは、「うちの街に出てほしい」ということ。これは、同社が既存のチェーン店と差別化するために「おいしい食事と素敵な空間」をコンセプトとしてきたことが評価されているのではないかと考えている。この路線は、アルバイト募集でも大きな効果を発揮していて。若い女性の応募が多く、人員を揃えることに困ったことはないという。この11月末で全国91店舗(うち直営16店舗)、オーナーは56社。大手の外食企業、メガフランチャイジー、飲食以外の異業種から参入しているなどさまざま。これらの中には4~5店と増店して「バンサン」を事業部門として育てているところも存在している。「THEカルボラーナ」1749円。スタッフがお客の目の前でパスタにチーズを絡めるパフォーマンスを行う「釜揚げシラスのペペロンチーノ」1859円。スタッフがシラスをたっぷりと盛り付けてくれるこのように「バンサン」の急ピッチな店舗展開と、それを促す出店の判断の要因として、商圏データ分析のDXが著しく進化していることが挙げられる。まず、出店を想定する場所の商圏データから、同社のターゲットである「35歳の女性」のボリュームを把握。このターゲットがこのポイントの前を1日何人通行しているのか、また自転車や車の通行量も把握する。さらに、これまで出店した店の商圏データと業績の状況を比較する。91店舗のデータがあることから、かなり精度の高い比較検証となる。加盟店の新規の出店場所が、既存の加盟店の商圏とかぶらないようにするために、厳密なルールを設けている。同社では、カジュアルイタリアンの市場規模は3500億円と想定していて、「バンサン」は全国に800店舗出店可能と考えている。これまでの出店動向から分析して、来年は1年間26店舗、これから5年間で370店舗を想定している。自動レジを導入。レストランチェーンの中でもDXへの取り組みは早い