『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。青森で「業界No.1レベル」に成長させた33歳社長の展望その②――県外客7割のバランス築く第2回(この連載は計3回)前回の末尾で、「地雷也グループ」の代表、小林達哉さんに再び取材をするきっかけとなったのは「居酒屋甲子園」と述べた。それは、2025年11月11日にパシフィコ横浜で開催された「第18回居酒屋甲子園全国大会」を取材したところ、「地雷也グループ」の「炭×肴 じらいや」の店長、高山裕也さんが「全国優秀店長」として紹介されたことであった。「炭×肴 じらいや」は2024年9月、青森市内の目抜き通り「新町通り」にオープン。地雷也グループにとってコロナがあけた久々の出店であり、本拠地である本町の隣町で、青森駅寄りの一歩メジャーな立地に挑んだことになる。高山さんが「全国優秀店舗」に選ばれたのは、同店で改善運動を展開して、業績を大きく引き上げたことが評価されたこと。高山さんは日々「地域ナンバーワン」を唱えて、これを店舗の指標とした。ミーティングでは、「その取組みは、地域ナンバーワンにかなっているか」いうことを判断の基準とした。こうして、42坪53席の同店は、客単価5500円で月商1500万円を達成した。筆者は、この居酒屋甲子園全国大会の会場で高山さんにご挨拶した。高山さんは、Uターン・Jターンの支援センターにお世話になって2019年に青森市内に移住し、地雷也グループに入社した。支援センターから紹介されて、筆者が2018年9月に書いた地雷也グループの記事を読んだ、とのこと。そこで、地雷也グループへの興味が湧いたという。筆者はうれしくなって、高山さんに親近感を抱いた。2025年11月11日に開催された「第18回居酒屋甲子園」で「全国優秀店長」として称えられた高山裕也店長(撮影/福田真紀)そして、「代表の小林さんに、再び取材をしよう」と、想いがこみ上げた。小林さんと地雷也グループは2018年以来の7年間でどのように変化したのであろうか。そこで、小林さんにメッセンジャーをお送りしたところ、「取材OK」という。地雷也グループが出店して街が動き出したこの取材で、筆者が青森市内に降り立ったのは12月1日の夜。青森駅前のホテルに荷物を置いて、早速、地雷也グループが2店舗出店した新町通りを散策した。新町通りをまっすぐ東の方向へ。100mほどのところに「鮨と地酒 地雷也」、さらに500mのところに「炭×肴 じらいや」があった。両店とも、店頭にねぶた人形が飾られあり、観光客への訴求とブランディングを感じた。新町通りは、昭和の時代に大層にぎわっていたが、郊外に大型のショッピングモールが出来たことで、すっかりと「シャッター通り」に変貌した、という経緯がある。しかしながら、地雷也グループの2つの店舗が誕生したことで、シャッターが上がり、明るさが戻ってきたようだ。そして翌日12月2日の13時から、筆者は小林さんにインタビューをした。まず、2024年9月、25年9月と、ワン・ツーで新町通りに出店した経緯について尋ねた。地雷也グループは、飲食店街の本町で14年前に起業し、ここで基盤をつくってきた。 新町は本町の隣で、駅寄りに位置していることから、小林さんは「事業を展開していくうえで、いつかこのエリア に出店してみたいと考えていた」という。 新町通りの物件は、地雷也グループの取引先であるメーカーから紹介されたという。「新町通りはシャッター通り」と前述したが、コロナがあけてから状況は一変。インバウンドと県外からの観光客が急速に増えて、このエリアを回遊する人が増えたという。小林さんは、こう語る。「本町と新町は隣接しているとはいえ、私は新町のマーケットをまったく掴めていませんでした。しかし蓋を開けてみると、新町には、いわゆる『飲⾷店の閑散期』と⾔われるような落ち込みがほとんどありません。 そんなこともあり、新町に出店した店はとても繁盛しました。街全体が動いています」2024年9月、新町通りに初めて出店した「炭×肴 じらいや」同社の2つのお店は、工事をしている段階からして、地元の人たちから「また地雷也ができるんだね」と、期待されたという。さらに、外観にねぶた⼈形を備えることで、観光のお客が足を止めて、そのままお店を利用するパターンも見られるようになったという。「炭×肴」は同社5店舗目となる新規のお店で、「鮨と地酒」は移転オープンしたもの。そこで同社は、現在の5店舗で300席の体制となった。新町に店舗がなかったころと比べると売上は2倍に伸び、本町の既存店でも新町2店舗の効果もあり、売上が110%になっているという。インバウンドと県外からのお客で7割占める「新町通りにインバンドが増えた」と前述したが、「炭×肴」を例に挙げると、客層の⽐率はインバウンドが2割、県外のお客が5割、 地元のお客が3割という。特にインバウンドのお客は 「街を回遊しながら、気になるお店にふらりと入る」といった傾向があり、予約なしで来店するケースがほとんど。そのため、満席時にはお断りせざるを得ないこともあったことから、地雷也グループでは外国⼈のお客専⽤の予約フォームを新たにつくったという。インバウンドが急増した背景には、まず、⻘森空港で台湾との定期便が復活したこと。そして、⻘森湾には⼤型豪華客船が停泊する埠頭があり、クルーズ旅行で訪れる外国⼈観光客が増えたこと。コロナがあけて、これらが重なって⼀気に押し寄せるようになった。地雷也グループの料理は、「産地に近い」ということで、新鮮な魚介類を、素材を活かした形で提供している。これらで約140品をラインアップし、5店舗のメニューはほぼ同一のものを提供している。これらで、客単価は5000円から5500円あたり。小林さんは「東京であれば8000円、9000円あたり感覚ではないでしょうか」と語る。そこで県外のお客から、「この価格でこの内容は安い」と大層喜ばれているという。こうして、全国的に地雷也グループの知名度は、年々高まっているようだ。客層の動向について、平⽇はインバウンドや県外の観光客が中⼼で、3割ほどの地元のお客は⾦曜⽇から週末にかけて増え、会社の飲み会など法⼈利⽤が多い傾向にある。 店舗としては、席がすべて埋まって、それが適切に回転していくことが理想である。そこで、満席時にお客が来店された場合は、電話回線を使⽤したインカムを使って、リアルタイムで空席状況を共有している。この仕組みによってお客をご案内するスピードが格段に上がった。このインカムは空席確認だけでなく、⾷材の融通やヘルプの要請など、店舗間の連携にも大いに役⽴っているという。大型客船の埠頭が、青森湾内の新町通りに近い場所につくられたことで、インバウンドが急増している「最低賃金」の大幅アップに対応したこと2025年の10月以降、「最低賃⾦」が⼤幅に上げられた。それに対して、地雷也グループではどのような対策を取っているのだろうか。小林さんはこう語る。「最低賃⾦の引き上げが⾒えてきた段階で、賃⾦の改善に取り組みました。店⻑・料理⻑は⽉給で4万円から6万円、⼀般社員も2万円から3万円の増額です。これは⼈材の確保や定着だけでなく、これまで以上に質の高いサービスを提供していくためにも、こ の決断をしました」⼀⽅で、仕⼊れ価格の⾼騰も重なり、従来の価格体系のままでは店舗運営のバランスが難しくなった。そこで、フードメニュー全体の⼤幅な価格改定ではなく、「チャージ料⾦」を最⼩限の幅で⾒直しした。例えば「炭×肴」では660円だったチャージ料金を825円に調整した。「フードの価格を上げてしまうと、お客様が『以前より⾼くなった』と感じやすく、⼼理的な負担も大きくなってしまいます。特に、690円の商品を50円⾒直すと740円になり、位が上がってしまいます」「⼀⽅で、チャージ料⾦をわずかに⾒直す⽅法は、最終的な会計⾦額の上がり幅が少なく、お客様の体感的な負担増を抑えられます。宴会コースのお客様からはチャージをいただいておらず、普段ご利用いただくお客様の⼈数分が、そのまま会社全体の安定的な支えとなります。『炭×肴』の場合、宴会以外のチャージ本数は⽉に2000本ほど。そこに100円の⾒直しを加えるだけでも、⽉20万円の改善効果が⽣まれます。お客様⼀⼈ひとりのご負担はできる限り⼩さく、しかし従業員の待遇改善や品質維持のための財源はしっかり確保する。 このバランスを⼤切にしました」「弊社で設定しているチャージ料⾦は、お客様にとっては『⼊場料』のような位置づけです。 実際に、弊社のフードメニューは他の飲⾷店と比べて同等か、それよりもお求めやすい価格帯に留めています。お客様もご注⽂の際に躊躇することなく、3、4品ほど気軽に選ばれるケースが多いです。 そして会計時に割り勘をしても、『前より100円くらい高くなったかな』という程度に留まりやすいようです」この客単価を調整するための考え方は、慧眼である。このような小林さんの考え方を伺うにつけて、筆者は「商売の天才ではないか」と感じる。小林さんが、経営者として優れていると感じる場面は、「経営者のあるべき姿」の持論を持っていて、それを自らに課して実践していることだ。次回(最終回)で、この小林さんの持論と実践について論述する。(次回は、1月22日公開)