連載第23回、24回、25回、26回、27回(最終回)は、連載1回、2回、3回と一部重複します第5章 〜2020年から23年まで〜コロナ禍が外食産業にもたらした「生き抜く力」と「新しいステージ」――その⑤(この章は5本)2020年4月以降の度重なる緊急事態宣言や営業自粛要請によって、外食産業は営業時間の短縮や、酒類販売の自粛など、厳しい事態を迎えることになった。ここでは、コロナ禍にあって外食ではどのような行動をとったかということの顕著な事例を筆者の当時の記事をつないで述べていきたい。なお、代表者名や肩書、店舗数・売上等の数字は当時のままである。KUURAKU GROUP(千葉・船橋市)コロナ禍前からインバウンド対策に取り組み、鎮まっていち早く享受するコロナによる自粛や制約が続く中で、日本の人々はコロナに対してのリテラシーが高まってきた。2022年10月には「新型コロナウイルス感染症に関する水際対策緩和」が行われて、コロナ前に活況を呈したインバウンドが再び来訪するようになった。さらに、23年5月に「5類感染症移行」によって、日常が復活するようになった。これらによる効果を満帆に受け止めた事例として㈱KUURAKU GROUP(本社/千葉県船橋市、代表/福原裕一)の動向を紹介したい。同社は1999年3月に設立、焼き鳥居酒屋運営の飲食事業国内15店舗(うち5店舗はのれん分け)、海外19店舗、学習塾事業3教室、学童保育3施設を擁している。筆者はコロナ禍での同社の動向を、代表の福原氏のfacebookを見ながら推察してきた。緊急事態宣言に先駆けて全店休業。日中にかき氷を販売。またフルーツサンドをリヤカーにのせて移動販売、キッチンカーで焼き鳥を移動販売と「居酒屋営業ができないなら、自分たちがいまできることを精一杯行う」といった様子が、連日のように公開していた。同社ではコロナ禍前から、インバウンド向け口コミサイトでの投稿などでインバウンド対策に熱心に取り組んでいたが、コロナが落ち着いてきた22年の10月ごろからインバウンドが劇的に回復して「過去最高売上を達成した店が続出」という書き込みがなされるようになった。そして、23年9月期(25期)の業績はこのようになった。売上高11億6000万円(2020年度は10億円、前期比で148.6%)、営業利益は20年度の13.5倍。外食事業の既存店売上(9店舗で比較)は19年比で130.7%となった。特筆されるのはインバウンドの伸び方である。同社のコロナ前のインバウンドの売上は2億円で全体売上の約20%となっていた。インバウンドの入国制限が大幅に制限された22年10月以降、23年9月期のインバウンドの売上は1億2000万円と予測していたが、結果的に2億 6900万円となった。予想の約3倍である。インバウンドの総数は世界85カ国、7万818人となった。この、想定していた以上にインバウンドが伸びたことについて、同社代表の福原氏はこう語る。「一つは、コロナが落ち着いてのリベンジ消費熱。日本よりも規制が速く解除されていた海外では消費意欲が強かった。もう一つ、円安効果。米ドル円レートは19年10月が110円、22年10月が130円、そしていま23年10月は150円に迫っています。当社の業態である焼鳥居酒屋の『福みみ』は客単価3800円ですが、これを米ドルで捉えると、19年が34.5ドル、23年は25.3ドルということになる。つまり36%引きということ」同社では海外で展開していることから、海外でのコロナ禍に向き合う情報がいち早く入ってくる。22年に入って、海外の国々ではコロナによる規制が緩和されていたこともあり、同社ではその動向を同社の気運につなげようと考えた。福原氏は「これから、コロナのリバウンド需要が始まると分かっていましたから、『日本ももうちょっとの我慢だな』と社員にプラスの気分を抱いてほしいと考えた」と語る。このようなポジティブな発想が、業績回復のムードを強めることができたのであろう。コロナ禍はコロナ前のあらゆる課題を解決した以上、筆者がコロナ禍の渦中に取材した事例の中で、象徴的なものを5回に分けて9本掲載した。そこで改めて「コロナ禍は外食産業に何をもたらしたか」と考える。それは「生き抜く力」ということになるだろう。コロナ禍前に、それぞれがさまざま模索していたことが、この4年近くの間に一気に解決された。 テイクアウト、デリバリーに加えて通信販売と新しいチャネルを開拓し定着させた。この間DXが著しく進み、作業の効率化や働き方改革が進んだ。インバウンドが急増した経緯を踏まえて、グローバルな感覚を持ち多様性を尊重する環境が定着するようになった。 そして、いま飲食業は新しいステージを迎えている。私は記者として、さまざまな取り組みを取材してきた。これらを整理していて人々の営みの力強さをかみしめている。この重さや深さに敬意を表して、これからも取材活動に取り組んでいきたい。――千葉哲幸の「『外食産業の歴史』を知る時間:終了