『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」が描く「攻める経営」のための設計図 その③――今期売上176.%を見据える確信とは第3回(この連載は計3回)株式会社鶏ヤロー(本社/千葉県流山市、代表/和田成司)という、いま伸び盛りの飲食業のことを連載している。創業して第15期を迎えている同社は、前期の第14期(2024年6月~25年5月)に大きく飛躍した。売上増、店舗数増、従業員数増が著しい(本連載、第1回、第2回を参照)。なぜ、これらが可能になったのか。それは、同社の人材が育ち、組織的に強くなったということに他ならない。同社の創業は2009年10月だが、「鶏ヤロー!」がスタートしたのは2014年2月。それが10年を経た25年5月末に82店舗となっている。店舗展開がハイピッチだ。今期も前期比で、売上高176.6%、店舗数151.2%と、強気の目標を掲げている。では、「鶏ヤロー!」は、ほかの飲食店と何が違うのだろうか。筆者は、コロナの前から鶏ヤロー代表、和田成司氏に何度もインタビューしてきた。また、同社の店舗を訪れて、さまざまウッチしている。ここから、「鶏ヤロー!」が持つ、顕著な特徴を論述したい。「カオスで、緩くて、まじめ」な居酒屋チェーン「鶏ヤロー!」の看板は、見ての通りとても独創的だ。旭日旗に似たデザインで赤と黄色の配色は強烈に記憶に残る。ここに書かれている文言は、「レモンサワー50円」「サワー・カクテル99円~」「フード99円~」「生ビール299円」、そして「鉄板焼き」「自家製つくね」「チーズおむれつ」「メガ盛りポテト」等々。ずばり「お酒が安い」「みんな大好きな食べ物」のオンパレード。「振り切った」という感覚だ。フードメニューは、チキンをメインして、親しみやすい内容で構成「鶏ヤロー!」のフードは鶏肉を使用したおつまみを中心に約70品目、前述した低価格のドリンクを含めて客単価2000円。店内は衝立や段差のないフラットな構成。壁には「飲み会の会話」にありそうな文言をイラストや画像を添えてまとめたA4の紙が、ラミネート加工されて、重なり合うように張り付けられている。それは例えば「おしぼりで顔を拭く男性、好きです」といった内容だ。このような空間は、果たして居心地がいいのか、というと三者三様であろう。しかし、これが「飲みの場」となると、しっくりとなじんでくる。「選べるお通し」380円(店舗で異なる)の中に「テキーラ」がある。また、「テキーラ」はメニュー化されて(299円)、店の売上アップのための有力な武器になっている。ある店長の話では、毎週金曜日・土曜日の夜に「テキーラタイム」を行っているという。このとき、店内の照明を落とし、電飾を付けて、女性スタッフが、お客にテキーラの注文を促す。すると、テキーラがどんどん売れて、「今日の売上目標を達成することが出来る」という。また、そのテキーラを水鉄砲に入れて、お客の口の中に噴射する「テキーラ水鉄砲」299円がある。「ノリ」の感覚だ。テキーラの1ショット分を水鉄砲に入れてある「鶏ヤロー!」にやってくるお客は、みなグループである。4人がメジャーだ。そして、仲間同士で会話をしているときの声が非常に大きい。話題の内容は、意外にも「自分の夢」が多く、まじめだ。ホール担当のスタッフは、学生と思われる若い女性が多い。声を掛けると、みな礼儀正しい。「鶏ヤロー!」は「カオス」であるが、飲食業のあるべき「QSC」が、キチンと守られている。赤い提灯に書いてある文言は、「やすい、うまい、うるさい」。まさに「鶏ヤロー!」のことだ理念研修や評価制度に全社的に取り組む「鶏ヤロー!」が誕生した経緯は、以下の通り。代表の和田氏は、2009年10月に飲食業を起業して、さまざまな業種の飲食店を手掛けたが、みな「ヒット」という状態から縁遠かったようだ。それが、2014年に大きな転機を迎えた。かつて勤務していた焼肉店の社長から「うちの取引先が、和田君に居酒屋を運営してもらいたいと言っている」という。場所は東武スカイツリーラインの松原団地(現・獨協大学前)。近くには低価格均一の焼鳥居酒屋チェーンで売上上位の繁盛店があった。そこに勝つために「ハイボール50円」を打ち出した。「低価格だとしても客単価2000円になればいい」ということを目標にした。同店はたちまち学生に人気のお店となり、その後大学の近くや若者が多い駅前で店舗を展開していく。コロナ禍前は二十数店舗であったが、現在は、80店舗を超えている。コロナ禍にあって店舗を50店舗以上増やすことが出来た要因は、空いた物件を積極的に取りにいったこと。そして、同社にある業務委託の制度を使って独立をしたいという人材が入社してくるようになったことが挙げられる。「客単価2000円」「居抜き物件」の居酒屋が10年間で80店舗を超えるチェーンをつくることが出来たポイントはどのようなものか。和田氏はこう語る。「コロナ前に20店舗を超える状態になった段階でブレが出てきました。そこで企業理念の浸透やKPIが必要だと考えるようになったのですね。そこでコンサルタントに入ってもらい、理念研修や評価制度について全社的に取り組むようになりました」同社の「理念浸透」とは「WINWIN=3K」というもの。「WINWIN」とは企業理念で「W=『わくわく』オーダーを取り」「I=『いきいき』オーダーを作り」「N=『ニコニコ』で提供する」ということ。「3K」とは「かっこいい・稼げる・叶える」ということ。このような活動を継続してきて、アルバイトからのリファラル採用が定着してきている。第14期では、リファラルで16人が正社員となった。本質的な世界観を礼賛して、従業員もお客も集まる筆者は、外食の記者を40年以上継続している者である。この間の、外食のトレンドを自ら体験してきた。大衆居酒屋チェーンと言えば、養老乃瀧、庄や、天狗、つぼ八、村さ来が1970年代後半から80年代にかけて大きく隆盛した。この当時、これらの特徴を挙げると、このようにまとめることが出来る。そればまず、「食べるメニュー」が何でもある、「客単価2500円」に落とし込まれている、ということだった。居酒屋の世界は、かつて「時価」が通用した時代があったが、このような大衆居酒屋チェーンの、「低価格」「なんでもある」といメニュー構成は、大いに歓迎された。特に20代の若者層にとって、「夜のレジャー」を切り拓いた。これら大衆居酒屋チェーンが振るわなくなったのは、「消費者の経験値が高まった」ということに尽きるだろう。だから、低価格で「食べるメニューが何でもあるということは、「食べたいメニューが何もない」という価格をもたらしたと、筆者は考えている。そこで、いま「鶏ヤロー!」に行ってみよう。「鶏ヤロー!」には「食べるものは(とりあえず)なんでもある」「低価格」である。アルコールのドリンクが意表をつくほど安い……。物理的には、このように「安さ」「バラエティ」が目立っている。しかし、店内は居心地がとてもいい。かつての大衆居酒屋チェーンは比べ物にならない。店内の装飾品や、壁には「ふざけた」言葉が氾濫し、しかしながら、スタッフの対応はすべからく丁寧で、礼儀正しい。「お客の会話する声が、大きい」と前述したが、それはお客の気分が「開放されている」ことに他ならない。つまり「鶏ヤロー!」は、「カオスで、緩くて、まじめな居酒屋チェーン」である。表面的な、この文言通りであるが、その本質的な世界観を礼賛して、共有している。このような人々が従業員として同社に集まり、お客もファンとなって集まって来る。――と、筆者は認識している。