『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」が描く「攻める経営」のための設計図 その①――前期売上130%を達成した原点第1回(この連載は計3回)株式会社鶏ヤロー(本社/千葉県流山市、代表/和田成司)という飲食企業が存在する。「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」(以下、鶏ヤロー!)という名前の、鶏料理をメインとした客単価2000円の居酒屋をチェーン展開している。いま、店舗数は80を超えている。この同社が近年急成長している。代表の和田成司氏(42歳)は、20代の当時、焼肉店の会社に勤め、店長からマネージャーまで務めた人物。2009年10月に起業して、焼肉店をはじめさまざまな飲食店を展開していた。2014年2月に「鶏ヤロー!」をオープンしたところ、それがヒットして、チェーン展開するようになった。1号店オープン以来、丸10年が経過して80店舗突破である。そこで「鶏ヤロー!」がいま、どれのほどの急成長を遂げているのか、それとともに、社内的にどのようなことを進めているのか、3回にわたって論述しよう。鶏ヤロー代表の和田成司氏は、独立・起業して5年目にしてヒット業態の「鶏ヤロー!」を生み出した売上130%、店舗数122%、従業員数142%「鶏ヤロー論」の第1回は、「鶏ヤロー!」の成長が、どれほどの勢いを持っているか、について。ここでは、同社が今年6月の社員総会で公開されたデータをもとに紹介していく。鶏ヤローは現在第15期(2025年6月~26年5月)。前期(24年6月~25年5月)の概要は、このようになっている。第14期(2024年6月~2025年5月)・売上高:28億4000万円 *前期:21億8000万円、前年比130.3%・店舗数:82店舗(15店舗出店、過去最高)、前年比122.3%・従業員数:638人(うち正社員117人) *前期:449人(同93人)、前年比142.0%これらは、いずれも会社の勢いを感じさせる。まず、売上が前期比130%を達成することができたのは、新規出店15店舗を行ったことによる店舗増にもたらされた。この店舗増の背景にあるのは、社員の能力が充実してきたことに他ならない。これからの展望は、すべからく、この店舗増によって、攻めていく自信が培われていったと拝察する。新規出店、新規事業を実践、成長の土台つくるここで、第14期(2024年6月~25年5月)の振り返りと「成果」をまとめておく。第14期の戦略テーマは、こちらの3本。(1)「新規事業・新業態へのチャレンジ」→新規事業やろう(2)「関西・東海地方への新規出店」→新規出店やろう(3)「集まれ!鶏ヤローフェス開催‼」→鶏ヤローフェスやろうまず、(1)「新規事業やろう」について。この狙いは、「鶏ヤロー」か、「鶏ヤロー」以外か、ではなく、若者がなりたい大人になれる場所を求めて、新規事業・新業態開発にチャレンジする、ということ。ここで生まれたのは、以下の3つである。1つ目は、無料:カラオケ付き居酒屋「鶏ヤロー」2つ目は、酒場「魚と鶏ヤロー」3つ目は、秩父ホルモン酒場「まる助」――こちらは、M&Aによって新ブランドとした「魚と鶏ヤロー」は東京・御徒町の高架下にオープン。今日的な大衆居酒屋の売れ筋を整理して取り入れて、客単価2300円となっている「まる助」の展開エリアは、埼玉県南部がメイン。「鶏ヤロー!」の展開エリアを重なり、客層も共有できる(1)の狙いついて、代表の和田氏はこう語る。「これまで、新規出店は『乗降客10万人以上』の駅近くしか出していません。これを外れると売れません。家賃についてはあまり気にしていなくて、広さが重要だと考えています。80坪200万円という店もあります。そこで、『鶏ヤロー!』だけでは、出店場所が限られて、年商も頭打ちになる。ですから、多業種を持つ必要があると考えていて、これから業態づくりの種まきを行います。『まる助』は、2025年6月1日に鶏ヤローの事業となりました(直営6、FC12)。単一業態のチェーンをわが社の事業にすることに意義を感じました。次に、(2)「名古屋・大阪出店やろう」について。ここでは、名古屋・大阪に11店舗を出店した。具体的には、浜松店(静岡/FC)、両替町店(静岡/FC)、金山店(名古屋/FC)、名古屋駅前店(名古屋/直営)、名古屋栄店(名古屋/直営)、京都河原町店(京都/FC)、なんば千日前店(大阪/直営)、広島えびす通り店(広島/FC)、高松店(香川/FC)、八代店(熊本/FC)、熊本下通店(熊本/FC)、という内容。(2)の狙いについて、こう語る。「これらの中で、直営の「なんば千日前店」はとても意義のある店舗です。70坪でここに1億円を投下しました。この店を拠点に、出店余地のある関西地区に多店化していきます。東京圏では、神奈川に攻めていきます」そして、(3)「鶏ヤローフェスやろう」について。準備:3カ月前から実行委員会で準備を進めた。前日は泊まり込みで会場の装飾や食材の仕込み、搬入を行った。フェス:2024年8月19日、「第1回鶏ヤローフェス」を、全店の社員、スタッフを招いて開催。イベント:カラオケ大会、ぬるぬる相撲、綱引き、キャンプファイヤー、チアリーディングなど。出店:フルーツ飴、綿あめ、キュウリ、射的、BBQ、アルコール各種等のお店。(3)の狙いについて、こう語る。「このフェスは、当社の従業員のみで交流するイベントですが、第14期に初めて行いました。これが成功したことで、従業員にとって、当社との関わり方はより深くなったと思います」学びの場や結束する気運を育てる第14期の「その他の振り返り」を列挙しておこう。その1:「WINWIN大学」始まる。全6回の開催で、参加者57人。この「研修&行事」は、月1回開催。月ごとに研修内容が異なる。「サービスマナー」「クレーム対応」「プレゼンの仕方」「コミュニケーション」等について。さらに「サークル活動」があり、リーダー、サブリーダーを決めて、その二人が中心となって、ダーツ、ボウリング等を行った。その2:「夢アワード」、第14期の参加人数は252人。この「夢アワード」の本番に出場するメンバーを決める選考が数回行われた。本番は上位5人によって行われた。前述の「鶏ヤローフェス」もさることながら、「夢アワード」の開催は、従業員が一体感をと向上心を感じとる体験となったその3:リファラル採用を強化、採用実績18人(社員16人、アルバイト2人)。採用では、友人をスタッフとして紹介すると1万円が支給される「友人紹介制度」もある。社員の紹介料が通常の2倍の20万円になるキャンペーンが年に2回ある。同社の社員の採用コストは、1人あたり25万円となっている。その4:アルバイトの有給取得・買取制度/消化日数1471日、買取金額510万円。 以上、鶏ヤローの第14期(2024年6月~25年5月)の「概要」と「振り返り」をまとめた。第14期が、第13期に対して大きく成長したことに加え、社内の従業員を育成するための体制や、福利厚生を充実させたことが記されている。同社の社員集会が、この第14期のまとめであり、25年6月に初めて開催されたということだが、ここには第14期に果たしたことに自信をつかみ取り、第15期から始まる展望を抱くことにつながった。次回は、その部分を詳しく紹介しよう。(次回、第2回は11月6日公開)