『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について語る。スマイルリンクルが「神田ドミナント」という方針を変えた「守り」から「攻め」への動きとは――逆境の中で「一致団結」の社風築く第2回(この連載は計2回)前回は、スマイルリンクルという会社が、これまで東京都下のさまざまなところで展開していたが、「自分たちは、神田が得意な会社だ」と確信して、神田エリアにこだわることにしたという、その経緯について紹介した。 そして、神田のお店のそれぞれは、二つと同じコンセプトのお店をつくらない方針で、お店の魅力づくりを掘り下げていった。また、同社では「女性活躍推進」を行っていて、その企業文化が、お店の中に活発な空気感を醸し出し、ファンを培うようになっていった。このようなファンが、神田で2軒目、3軒目をはしごするときに、同社のお店を回ることが定着していった。 さて、本稿のテーマである。そのような同社が、これまで培ってきた「神田ドミナント」と「商業施設に出店しない」という方針を覆して、なぜ、八重洲の大型複合ビルに出店することを決断するようになったのだろうか。神田ドミナントで6店舗の同社が、「守り」から「攻め」に転じた背景について、ここで論述する。 コロナ禍を振り切って営業して「一致団結」するスマイルリンクルは、コロナ禍の真っただ中にあって勢いを増すようになった。同社代表である須藤剛氏によると、この「勢いを増す」きっかけとなったのは、休業要請がある中で「振り切った形で、営業した」ことであった。「ディナー帯での休業要請があったときに、『果たして、夜になるとウイルスが強くなるのだろうか?』と疑問を感じて、『そんなことはないだろう』と。きちんとした指標の裏付けがなく、休業要請がなされるならば、われわれば正々堂々と商売をやろう、と決断しました。これによる『過料』も支払いました」こうして、コロナの中で同社の店舗が営業をしていると、お客は次々とやって来た。そのことが話題となって、遠方からもやって来た。たちまち、神田の各店舗は2時間待ちの状態になった。このような中で、同社では社内的にルールをつくった。須藤氏はこう語る。「一つは、休業要請がある中で、われわれが営業することを、全員で納得すること。これがないと『やらされ感』が生まれてしまいます。もう一つは、来店されたお客様を無下に扱わないこと。この繁盛現象はわれわれの力ではない、と。そこで、『いま、たくさんのお客様が来てくださっていることを、次につなげるためには、どうすればいいかを一生懸命考える』ということです」このような方針で営業を続けていた同社では、いまにつながる社風が整いつつあった。「それまで、従業員さんは『自分の店が勝てばいい』という発想をしていました。これはこれで大切なことですが。それが、同じエリアで仕事をしている以上、6店舗で働いているすべての人が、きちんとかみ合っていないともったいないことだ、と考えるようになりました」そこで、同社では、業種が異なる店舗間で従業員のシャッフルを行うようにした。そのために、従業員のすべてがオープンにコミュニケーションを取ることが出来るコミュニケーションツールをつくった。これによって、「一致団結」の社風が培われていった。こうして、同社の売上高は2019年比で130%の状態になったという。「神田」の概念が広がり、新しい客層を獲得そしてスマイルリンクルでは、この8月八重洲の大型複合ビルの中に「鉄板 五十六」をオープンした。「神田ドミナント」で、「商業施設に出店しない」という同社の方針を超えた、新しいチャレンジである。須藤氏はこう語る。「八重洲に出店することを決断したのは、デベロッパー様から、われわれが提示した出店に際しての条件をのんでくれた、ということが一番ですね。つまり、ランニングコストが極力抑えられて、自由度がある、ということです」「そして、これまでの「神田エリア」で出店するということを、もう少し広い視点で捉えてもいいのではないか、と。これからは、秋葉原も神田エリアと捉えていいかもしれません」ロゴは、若干硬派なイメージを表現している新規出店の業態を「鉄板焼き」にしたのは、同社創業の業態が鉄板焼きである「お好み焼き」ということに由来しているという。同社には鉄板焼きが出来る人材がたくさんいて、「鉄板焼きが得意な会社」ということを自負している。さらに、「未来型」の店づくりについて、こだわりがあった。「これからの飲食店は、『おいしい』ということだけでは差別化することが出来ません。『シズル感』をはじめとした『体験価値』というものがとても重要ではないか、と。そして、お客様とのコミュニケーションですね。食事をおいしくするのは会話です」現状、客単価はディナー帯で、6000円から7000円あたり。いわゆる従来の鉄板焼きだと、「A5和牛」とか「ロブスター」といった食材を焼いて提供する形で、これだと2万円、3万円のお店となる。同社の場合は、お客が日常的に親しんでいる食材を鉄板焼きで表現して、これをミドルの価格帯で提供しようと考えた、という。カウンタ―席では、鉄板焼きの調理風景がショーアップされて五感に伝わる八重洲のお店には、神田には見られないちょっと敷居の高い感じの客層が来店しているという。これらのお客は、食事をして「ちょっと、安すぎるんじゃない⁉」とコメントする人もいるという。同社としては、ステータスを感じ取っているようだ。スマイルリンクルという会社は、コロナ禍の経験によって、新しいことにチャレンジする企業文化を培った。新規出店の立地が、神田から遠く離れた場所ではなく、隣りの町である。神田ドミナントの概念が広がったと捉えていいのではないか。スマイルリンクルが育て上げた「一致団結」のこれからの歩みを注目していきたい。楽しそうに働いている従業員の表情や活気がお店の空気を盛り上げる