連載第23回、24回、25回、26回、27回(最終回)は、連載1回、2回、3回と一部重複します第5章 〜2020年から23年まで〜コロナ禍が外食産業にもたらした「生き抜く力」と「新しいステージ」――その②(この章は5本)2020年4月以降の度重なる緊急事態宣言や営業自粛要請によって、外食産業は営業時間の短縮や、酒類販売の自粛など、厳しい事態を迎えることになった。ここでは、コロナ禍にあって外食ではどのような行動をとったかということの顕著な事例を筆者の当時の記事をつないで述べていきたい。なお、代表者名や肩書、店舗数・売上等の数字は当時のままである。 和音人(東京・世田谷区)コンセプトの源となる通信販売を開発し「オンライン飲み会」で発信東京・三軒茶屋にドミナントで7店舗展開している㈱和音人(わいんびと、本社/東京都世田谷区、代表/狩野高光)の場合。創業の店のコンセプトは「山形」に由来するが、それは立ち上げメンバーであり現在同社の執行役員を務める齋藤太一氏が山形県西川町大井沢の出身で、父が現地の町おこしで活躍している。齋藤氏は父の活動を応援したいという想いがあったことから、狩野氏も創業店のコンセプトをその町を盛り上げていく趣旨のものにした。立ち上げメンバーは店がオープンする1年半前から、現地の酪農家、農家、酒蔵などさまざまなところと交流して食材を仕入れるルートをつくった。和音人では2020年に入り1~3月の業績は前年を上回っていたが、4月に入ると通常の3割以下に減少するようになった。政府は4月7日に「緊急事態宣言」を発出した。それを受けて、狩野氏は9日より和音人の7店舗中6店舗の営業を自粛することをFacebook上で発表。ここからの同社の行動は俊敏であった。それは、以下のようなものだ。(1)4月10日より、7店舗中6店舗はイートイン営業を休止しテイクアウト営業に切り替え、無添加・無化調の食事を提供。デリバリーは、業者ではなく同社の社員が行った。これは業者委託の経費を削減するだけではなく、地域密着で育ってきた同社として地域との結びつきを大切にしたため。メニューは「彩り稲荷寿司」「三種のブリトー」「鰹節のフォカッチャ」(500円)、「料理人七人の日替わり弁当」を始めとした弁当(1000円)、オードブル(3000円、5000円)、和音人がセレクトした日本酒やオリジナルのクラフトサワーなど。デリバリーの場合は2000円以上購入の場合は送料無料、2000円未満の場合は送料300円とした。開始してから1日80食を販売するようになり、大口の注文が入ると100食になることもあった。(2)ECサイト(通販)を立ち上げ、オリジナル商品を「和音人 月山 STORE」というサイトで発信。商品のコンセプトを山形の月山に求める姿勢は創業当時より一貫していた。まず「おうちde 芋煮」「おうち de 餃子」(1700円)を開発、また「山形斉藤の千日和牛」という和音人のブランド牛(1000日飼育の黒毛和牛の雌)を部位別にラインアップ。また、和音人のアンテナショップでも販売している「無添加手作りのレモンサワー」(1300円)や「からみそ鶏白湯スープ」「月山水炊き鍋〆ラーメンスタイル」(1500円)を逐次ラインアップ。開始して1週間で40万円を売り上げた。(3)「社長をタダで貸します」――代表の狩野氏が、他者の社員の勉強会に講師として出講。営業を自粛している中で、この期間に社員教育や、幹部研修をしたいという会社の要望に応えて、狩野氏が勉強会を行った。(4)オンライン飲み会「zoom de BAR」を開催。4月10日から、週に3回程度のペースで開催。三軒茶屋のバーから狩野氏を始めとした3人が司会を務め、参加者と盛り上がる。参加者は和音人の顧客、関係者の友人、知人など。東京だけではなく、マレーシア、アメリカ、スイスなど多岐に及んでいる。4月21日は「スラムダンクの勝利学に学ぶ」をトークテーマとして10人程度が参加し1時間強行った。フードサプライ(東京・大田区)「ドライブスルー八百屋」を発案し、野菜のまとめ買いを提案野菜の卸業者に㈱フードサプライ(本社/東京都大田区、代表/竹川敦史)がある。同社は全国の生産者、市場から野菜を仕入れるほか自社農場も保有し、その野菜を関東圏が中心の 5000の飲食業者に供給している。しかしながら、2020年の緊急事態宣言によってこれらの野菜が行き場を失った。そこで、同社ではB to Cの発想で「ドライブスルー八百屋」を手掛けた。この活動は「生産者支援」という側面もあり全国に広がり社会現象となった。代表の竹川敦史氏は1979年生まれ。大学卒業後、冷凍食品の製造・販売の会社に就職し同社外食事業の新業態開発に携わった。その後外食企業に転職。独立して焼肉店を手掛けた。さらに飲食店のコンサルティングを行うようになり、ビッグビジネスを志向して、飲食業に関わる流通業に進出することを考えた。その業種として割り出したのが「八百屋」であった。その理由は、飲食店の「野菜の仕入れ先は?」と考えたときに、すぐに思い浮かべることができないという経験があったからだ。「八百屋の顔が見えないということは、飲食店に対する八百屋からの提案がないからだ」と考えた竹川氏は、コンサルティングの営業手法を野菜の流通に持ち込むことによって「八百屋の業界が変わる」と考えた。こうして2009年4月にフードサプライを立ち上げた。同社がコロナ禍による飲食業界の変化を感じ取ったのは20年の3月上旬から。同社の売上げが目減りするようになり「何とかしなければ」とその対策を模索した。同社では飲食業者から野菜を受注してそれを生産者に発注する形ではなく、生産者と定期購買契約を結び、さらに自社農園を営んでいることから、野菜はセンターに次々に送り込まれて在庫が増え続ける状態となった。そして「緊急事態宣言」が発出によって同社の野菜は行き場を失った。同社では20年4月9日、非接触の販売方法「ドライブスルー八百屋」を立ち上げた。代表の竹川氏はこう語る。「この頃、スーパーはめちゃくちゃ売れていました。だからといって、われわれがすぐに参入できるという甘い世界ではありません。しかし、この状況はB to Cが活発になっているということ。マクドナルドを見ると店内はガラガラですが、ドライブスルーは大渋滞です。そこでドライブスルーの八百屋をやることをひらめいた」この野菜販売は「5000円」一本を考えた。社内では「高いのでは」とか「コロナ禍で外出を控えているのでは」という声もあった。こうして飲食業向けの野菜を一般消費者に販売する「ドライブスルー八百屋」は同社の京浜島センターでスタート。ピークの時には1200人が来店した。「5000円」と「3500円」の野菜の詰め合わせをラインアップし、7時間営業で日商500万円を売り上げた。そして「生産者応援」という意義が付加された「ドライブスルー八百屋」をフードサプライでは全国の事業者に働きかけ最大で30カ所で展開、累計で6万人が来場した。さらに、夜営業が出来なくなった居酒屋の事業者に日中「八百屋営業」を行うことをアドバイスして、賛同した事業者に野菜を供給した。また「もったいない野菜セット」1500円をつくり、飲食店の店頭で販売してもらうようにした。――次回、4月17日に続く