『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。「月額費300円で、1回の食事が1560円お得になる」サブスクを展開する「揚州商人」の展望とは第2回(この連載は計2回)ラーメンチェーン「揚州商人」が、「月額費300円で、1回の食事が1560円お得になる」というサブスクを7月16日から行っている。同社では、これまでコアなファンにメリットを感じてもらう会員制度をさまざま取り組んできて、回を重ねるたびに充実させてきた。そして、究極のファンサービスのサブスクを行おうと同チェーンでは動き出した。本連載の後編では、このサブスクの仕組みと、これが同社「ホイッスル三好」の業績にもたらしたことについて論述する。300円を超える価値、「無料」メニューをラインアップまず、大いに検討したことは、「サブスク会員の月額費について」である。顧客が「金額を気にしないで、支払うことが出来る月額はいくらか」と。これは、現在存在しているさまざまなサブスクの月額を鑑みて「月額費300円」とした。次に、この会員にとって「300円を超える価値とは何か」を考えた。「揚州商人」では、前編で述べたように「グルメ会員」が存在する。ここでは「何度でも使える150円クーポン」や、「期間限定で、炒飯セット550円~570円(店舗により価格が異なる)を半額で食べられる」イベントがある。そこで、「よりコアなファンが歓ぶサブスクとして、杏仁豆腐は無料にすべきだ」と考えた。そして、通常価格が「杏仁豆腐」と並ぶ「パンナコッタ」510円、「餃子6個」560円、「皿蝦ワンタン」560円、「揚州ワンタン」410円を無料にして、これらを「サービス1」として、この中から1つを選べることとした。さらに、このサブスクを他社と差別化するために「サービス2」を設けることにした。まず、ラーメンとチャーハンの大盛りの通常価格240円を無料にした。さらに、トッピングの「パクチー」240円、「煮玉子」220円、「メンマ」290円を無料にした。加えて、圧倒的な「差別化」「お得感」を感じてもらうために、限定したドリンクを200円と300円で「何杯でも」飲めるようにした。200円のドリンクは、「四季春烏龍ハイ」「レモンサワー」「角ハイボール」「四季春烏龍茶」「コーラ」「リンゴジュース」「ジンジャーエール」、300円のドリンクは、「生ビールジョッキ」「紹興酒グラス」「ノンアルコールビール」である。これらの「サービス2」も、この中から1つを選べることとした。これらの一例として、この会員が、サービス1で「杏仁豆腐、無料」と、サービス2で「生ビールジョッキ2杯、300円×2」を飲むと、「1250円お得」とアピールした。このように設計された、「月額費300円」のサブスクは「プレミアム会員」と名付けられ、2021年8月にスタートした。これがスタートした当時は、「まん延防止法」があり、「酒類の提供を控えていただきたい」という状況にあったことから、「サービス2」ではソフトドリンクのみの提供であった。そこで、会員数はさほど伸びなかったという。しかしながら、「酒類の提供が実質的に解禁」となった2021年10月以降より、会員数は飛躍的に伸びた。こうして、アクティブユーザーは全店で1万3500人となった。2年間で既存店の売上が「26%」増加「プレミアム会員」の最も注目すべきポイントは、会員がオーダーするメインのメニュー、「ラーメンやチャーハンの値下げをしない」ということ。そして「月額費300円」。これが現状1万3500人であるから、月額で405万円、年間4850万円が計上される。「会計上の区分は『売上』となりますが、当社としては、お客様にご来店していただくための原資であり、販促原価と位置付けている」と三好氏は語る。このように「揚州商人」では、「グルメ会員」とサブスクの「プレミアム会員」という2つの会員制度が存在する。ちなみに、コロナ禍を乗り越えたホイッスル三好の売上高はこのようになっている(どの年度も、総店舗数は37店)。・2023年2月期、38億400万円・2024年2月期、44億6000万円・2025年2月期、48億円この売上高を37店舗で割ると、23年2月期は約1億281万円、25年2月期は約1億2973万円となる。25年2月期は、23年2月期に対して「26%」の増加となっている。このように既存店の売上高が大幅に伸びている要因について、三好氏は以下のポイントを挙げた。・この間、価格を改定してきているが、大きな価格引き上げではなく、お客様に寄り添うように10円刻みの感覚で価格を改定してきた。・コロナがあけてから、全店の営業時間をコロナ前と同様の、11時から翌朝の4時30分までとしている。深夜営業をしないお店が増えている中で、この時間帯のライバルが少なくなった。同社では、コロナ禍にあってシフトに就くことができなかったアルバイト・パートタイマーに対して、雇用調整助成金をフル活用し、コロナ禍前と同じ給与を支給していた。このように行き届いた従業員対策が、同社に対する信頼を厚くしているのではないか、と拝察される。これによって、店内にはつらつとして健全な空気感が醸し出され、顧客が「グルメ会員」や「プレミアム会員」の存在を注目するようになり、売上アップの相乗効果をもたらしているのではないだろうか。人口が減少する時代に、コアなファンの来店数が増えることが売上アップのポイント「おつまみ」を半額にして、飲酒客に訴求するさて、この7月16日から実施している新しい「プレミアム会員」は、それまで行っていた「サービス1」「サービス2」をそのままにして、「サービス3」を加えたものだ。「サービス3」とは、6月にラインアップした「揚州小皿料理」を半額で提供し、この会員は1回につき、1品を注文することが出来る。具体的にはこうなっている。「クラゲの甘酢漬け」380円→190円、「パーコー塩山椒付」620円→310円、「辣白菜(ラーパーツアイ)」280円→140円、「蒸し豚の冷製」590円→290円、「蒸し豚の辛味和え」520円→260円、「揚げ海老ワンタン(4個)塩山椒付」380円→190円、「ふわふわ海老玉子炒め」590円→290円、「豚挽き肉ともやしの辛味炒め」550円→270円、「豚バラとニラの玉子炒め」590円→290円、「小エビとパクチー和え物」360円→180円、「ピータン」490円→240円、「ピータンウフマヨ」490円→240円、「煮玉子ウフマヨ」350円→170円、「肉焼売(3個)」340円→170円 *「肉焼売」は一部店舗のみの取り扱いこの「サービス3」のポイントは、無料ではなく「半額」であること。さらに、小皿料理を求める顧客は酒類を楽しむ人が多い。既存の「サービス2」に「サービス3」が加わることで、「プレミアム会員」はその増加に拍車がかかるものと思われる。三好氏はこう語る。「プレミアム会員にとっての魅力が充実していくことよって、店と会員との関係性が深くなっていきます。それは、フリーのお客様が来店する以上のことです。揚州商人のコアなファンの方々が、月1回のご来店が週1回になったとおっしゃいます。つまり、これで店の客数が3人増えたということ。顧客にとっても、当社にとっても、とてもウィンウィンな会員制度です」広く、日本の外食市場のこれからを想定すると、人口減という現実があり「顧客の数」は減っていく、一方、店舗段階では、1人の顧客の来店頻度が高くなると「客数」は増えていくことになる。ホイッスル三好の「揚州商人」の取り組みを見ていくと、これからの「客数アップ対策」は、賢いサブスクの活用によってもたらされるものと感じた。ホイッスル三好の三好一太朗社長。従業員ファーストで社業を進めている