『フードパーパス』編集長の千葉哲幸が「いまどきの」繁盛店や繁盛現象をたどって、それをもたらした背景とこれからの展望について綴る。東京・北千住でドミナント展開する「一歩一歩」が、コロナ禍にあって小売業に着手して見えてきたこと第1回(この連載は計2回)「コロナ禍は、飲食業にどんなことをもたらしたか?」――前回の株式会社丘里(本社/茨城県古河市、代表/中村康彦)の話題は、「10店舗を4店舗に減らし、閉店する既存店の人材と売り方を、同社の旗艦店舗に集約したところ、この旗艦店舗の売上が1.3倍に増えて、会社が黒字体質になった」ということであった。まさに「選択と集中」である。筆者が中村代表に取材をしているときに、中村代表は「コロナの前は、いったい何をやっていたんだろうかと思いますよ」と、語っていた。「次に飛躍するためには、いったんしゃがんでバネをつくる必要があるんですよ。コロナはそれを教えてくれた」とまとめた。こんなことは、常に「会社を大きくすること」を念頭に置いていた、コロナ前の経営者に出来ないことであろう。コロナ禍を克服した飲食業は、明らかに「これからのわが社の生き方」をつかみ取っている。さて、今回から2回にわたって、東京・北千住に本拠を置き「北千住ドミナント」を築いている株式会社一歩一歩(代表/大谷順一)が、コロナ禍で経験したことを論述したい。10坪、1日客数1300人、月商1800万円の「八百屋」一歩一歩の代表、大谷順一氏は1974年3月生まれ、東京都出身。高校生の当時に祖父が経営する青果販売店で働き、飲食店に野菜を配達した経験から飲食業に興味を抱く。20歳で懐石料理のお店に入り、以来、飲食の道を歩む。その過程で、東京・北千住に新規にオープンしたお店を任されたことが、北千住にご縁が出来たきっかけである。そこで3年間頑張って、2007年に北千住で独立開業を果たした。現在、飲食店事業8店舗のうち、北千住に6店舗を構えている。また、居酒屋甲子園の第5代理事長を務めた。ちなみにいま理事長を務める和田裕直氏は第9代である。同社のホームページを見ると、同社の事業内容は「飲食店事業・食品小売事業・コンサルティング業務・業態プロデュース・メニュー開発」となっている。飲食店事業を推進していって、コンサルティング業務・業態プロデュース・メニュー開発の業務を行うようになった事例は数多くあるが、「食品小売事業」を手掛ける事例は稀である。本業が「飲食店事業」とうたうのであれば、「食品小売事業」を抱えることは、本業の効率化を妨げることになりはしないだろうか。同社の「食品小売業」とは、青果物や精肉、グロサーリー等を低価格で販売する小売店。北千住に2店舗、北千住から東武スカイツリーラインで4駅離れた西新井に1店舗を構えている。これらの店舗の価格を画像で紹介するが、スーパーマーケットの価格と比べると圧倒的に低い。午後の2時3時ともなると、近隣のご婦人が続々とやって来る。明らかに目的来店である。中でも北千住の旧・日光街道の路面にある「まるいち青果」は10坪の規模で、1日に1300人の買い物客が訪れ、月商1800万円を売り上げている。商店街に活性化をもたらす存在となっている。取引先の鮮魚業者を鮮魚販売でバックアップ一歩一歩が、小売業を始めたきっかけは2020年のこと、まさにコロナの最中であった。その背景について、代表の大谷氏はこう語る。「まず商売の環境が、これから当社にとってどのようになるのか分からないので、幹部たちとは「店を出すのは止めよう」と話していました。当社では、コロナ前から取引をしている鮮魚の業者様と、一緒に競り場に行って買い付けをしていました。その方とは15年ほどお付き合いがあるのですね。しかしながら、コロナになってマイナス思考になっていきました。私としては、何かお役に立つことができないかと。そこで、当社では、鮮魚を店頭で販売することを手掛けてみた。これが、小売りを始めたきっかけです」この鮮魚販売は、北千住の一つの居酒屋の店頭で行った。このような試みが話題となり、地元足立区の野菜の生産者にも伝わっていった。これらの生産者の多くは、学校給食におさめていたという。それが学校が休みになって、野菜を廃棄しているという。生産者はこのような野菜の在り方を改善したいと、一歩一歩に相談を持ち掛けた。代表の大谷氏は、「これらの野菜を当社が引き取って、足立区では野菜の生産が盛んであることをアピールしようと考えた」という。「私は、スーパーマーケットで育った人間です。その流れで『八百屋さんをやっちゃおう』となったのですね。これが青果物・食品販売店を手掛けることになったきっかけです」一歩一歩の既存店では、野菜をショーアップしているが、最新店の「炉ばたかど」では、そのボリュームが一層多くなっている自分たちが得意とするもので居酒屋の新店をつくる一歩一歩としても、コロナ禍にあって厳しい局面を迎えていた。飲食店の営業は休業要請などがあったことから、同社では退社した人材が数人いたという。また、同社が青果販売を手掛けたことで、飲食店の営業が余計にできにくくなっていた。その後コロナが落ち着いてきて、飲食店は再び営業できるようになった。「しかしながら、私が当社の社員と話していて、なんとなく『現状維持』という雰囲気が感じられるようになったのですね。いま、これからっていうタイミングで、現状維持をやっていくと『衰退』だろうと。私は、前を向いていく体制をつくろうと考えました。そこで、みんなに『店を出すぞ!』と宣言しました」しかしながら、大谷氏は「それは、どんな店か?」と。そんなことを自問自答しているうちに「当社の強みを最大限に活かした店をつくろう!」と考えた。こうして今年の2月末、北千住に「炉ばたかど」をオープンした。同店は、東京・北千住の旧日光街道の角の路面に出店。同社が得意としてきた野菜の炉端焼きをメインとして、店内は、野菜の陳列や、その炉端焼き、原始焼きをショーアップして、そのオープンキッチンをカウンター席が囲む構成。同社が擁する青果販売業の仕入れ力を活かして、バラエティ豊富な野菜焼きと野菜の惣菜メニューを特徴としている。炉端焼きに加えて、原始焼きおコーナーをつくり、温かみのある「火の演出」を行っているブランドではなく「お得」であることが重要大谷氏はこう語る。「当社ではコロナの間、『飲食』に加えて『八百屋』をやって来たのですが、これからは、これを別にして考えているのはもったいないのでは、と。そこで、これを組み合わせた飲食店をつくりました。例えば、ズッキーニの野菜焼きは、一般的に1本680円あたりの価格になっていますが、この店では380円で提供しています」野菜焼のオーダーが多く、順番にたんたんと焼き上げていく「かつての炉端焼きのお店は、お客様にとって大衆的な存在だったのですが、それがいまでは、『ちょっと高級な和食の店』として位置付けられています。これをあるべき姿に戻したいと考えています」「炉端焼き」のあるべき姿とは、どのようなことだろうか。「それは、当社の野菜の仕入れ力を活かした『炉端焼き』ということ。『良い食材を使う』という場合は『食材のブランド』を考えます。『〇〇産の〇〇』ということです。このようなことをメニューに書き入れると、確かに高級感が出るでしょう。「しかし、当社の『仕入れ力』とは、リアルに『いまの良い野菜』ということを、お客様にリアルに提供することが出来る、ということです。例えば、いま(6月上旬)ピーマンは九州産から茨城産に切り替わる時期です。そこで、産地の端境期ですから、九州産はいか安くなっている、と。こういうことが、当社にとって『いまの良い野菜」』ということです」この発言は「企業理念」というものを雄弁に語っている。一歩一歩は、「八百屋」の仕事を追求していくことによって、青果物流通の仕組みを熟知するようになり、これを自社の飲食事業に有利に活用できるようになった。(次回、9月25日公開に続く)一歩一歩の大谷順一社長は、青果物・食品販売の業務を掘り下げていくことによって「お得」の表現を豊かにしてきている